お米から生まれたハブラシで、脱炭素と地域連携を実現する
2025年12月04日
ライスレジンハブラシ
ホテルアメニティ向け高品質ハブラシの製造を手がける山陽刷子株式会社は、製品に愛媛県産のお米由来のバイオマス原料であるライスレジンを使用した『ライスレジンハブラシ』を市販向けに開発しています。
山陽刷子株式会社 総務 武内 和治さん
【事業内容】各種ハブラシ、クシ、ヘアーブラシやその他ホテル用品の製造
【本社所在地】〒799-3124 愛媛県伊予市三秋169
【TEL】089-982-1636
【FAX】089-983-4906
【企業HP】https://www.sanyou-burashi.co.jp
環境と地域農業に貢献する、高品質なハブラシの製造を推進
弊社が脱炭素化に向けた新商品開発に着手したのは、2020年のコロナ禍がきっかけでした。外出自粛の影響でホテル向けアメニティの需要が大きく落ち込み、既存のビジネスモデルだけでは将来性が見込めないと判断したためです。そこで、新たな販路として、従来取扱いのなかったドラッグストアやスーパーマーケットでの小売展開を模索し始めました。
実は弊社では、京都議定書が採択された2000年代から環境配慮型製品の開発に取り組んでおり、政府備蓄米や破砕米など、食用に適さないお米を原料としたバイオマスプラスチック『ライスレジン』に着目し、それを使用したハブラシを製造してきました。しかし、当時は環境意識が一般に浸透しておらず、価格も高めだったためなかなか市場に受け入れられず、採算の確保が困難な状況が続きました。
その後、2013年の東京オリンピック開催決定を受けたSDGsへの関心の高まりや2022年のプラスチック資源循環促進法の施行など、社会全体の環境意識が大きく変化しました。こうした追い風を受け、これまでの経験を活かし、環境に配慮した高品質なハブラシ開発にさらに取り組むことを決断しました。
専門家の知識とアドバイスで脱炭素施策を策定
本件プロジェクトでは、『令和6年度愛媛県ゼロカーボン・モデル製品創出支援事業』等の事業を活用し、複数のパートナー企業と連携。耕作放棄地を活用する農業法人の紹介やさらなる脱炭素化に向けたディスカッションなど、多くの有益なアイデアを共有していただきました。
さらに、データ解析を依頼し、機械や設備の性能を数値化した詳細な現状分析も実施しました。資料の整備には手間がかかりましたが、事業全体の構造を把握する良い機会となりました。
こうした分析を通じて、削減目標や課題を数値で可視化することができ、大規模な設備投資だけでなく、日常の小さな行動も脱炭素に貢献できることが見えてきました。その結果、工場や事務所では、電力使用の見直しや、こまめなスイッチオフなどの取組みが自発的に始まり、社員の意識も変わりつつあると感じます。
問題を数値化し、解決していく道をつくる
はじめに、市販向けライスレジンハブラシの試作品について、原材料調達から廃棄・リサイクルまでの範囲でCFP (カーボンフットプリント)を算定しました。その結果「0.151 kg-CO₂eq/個」という数値が得られました。これをもとに、製造工程ごとの排出量を詳細に分析したところ、数ある製作工程のなかでも、ハブラシの持ち手を加工する成形工程の電力消費量が大きいことが課題として浮上しました。
しかし、弊社では30年以上稼働している古い成形機が多く、運用の工夫だけでは電力消費量の削減が難しい状況でした。そこで、愛媛県の補助金を活用し、省エネルギー型の電動式成形機を導入。これにより、従来の油圧式では1日あたり約210 kWhだった電力使用量を、約129 kWhまで削減することができ、約40%のCO2削減が見込まれる結果となりました。
さらに、製品自体の改良にも取り組みました。ハンドル部分のライスレジンの配合率を35%に設定し、耐久性を保ちつつCO2排出の削減を図りました。加えて、ハンドルを空洞化させることで、原料の使用量そのものを減らしました。この改良により、既存製品と比べてプラスチック使用量を51%削減することに成功。結果として、原材料由来のCO2排出量を大幅に削減できました。
※ CFP:商品やサービスのライフサイクルを通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの。 Carbon Footprint of Productsの略。
脱炭素にとどまらない環境と地域への貢献を
省エネとデザインを両立
ホテル用アメニティとは異なり、小売店での販売では、多数の商品が並ぶ売り場の中で他社との差別化が求められました。そこで、デザイン性にもこだわり、地元のプロダクトデザイナーにデザインを依頼。パッケージや持ち手の形状には、お米を使用していることが一目で分かるデザインを採用しました。デザイナーの選定についても、『愛媛県ゼロカーボン・モデル製品創出支援事業』などの愛媛県事業で繋がった方々のご紹介により、従来にはなかったネットワークを活用して制作することができました。
また、ライスレジンとの配合比率によって生じる素材の色ムラについても試作を重ね、より自然な色合いの商品に仕上げました。こうした複数の課題をクリアし、省エネとデザインの両立を果たした商品が完成。現在では、地元の大型スーパーでの販売が始まっています。
さらに、ライスレジン使用ハブラシに加え、植物油などバイオマス由来の、自然界の微生物によって分解される『生分解性バイオポリマー』を使用したハブラシも製造しています。これらは、全国のホテル向けに出荷しています。また、バイオマスシリーズでは包材原料の半分以上を紙に置き換え、プラスチックの使用量削減にも取り組んでいます。作る時も、使った後も環境への負担を少なくする商品の提供を目標に、環境価値の高い製品の普及に力を入れています。
地産地消を実現し、環境と地域に貢献
弊社では、バイオマス原料に愛媛県産のお米を採用することで、地域農業の活性化や耕作放棄地の削減に繋がる共創モデルの確立を目指しています。
農業法人との提携により、自分たちだけでは接点を持つことができなかった農家の方々との取引が実現。愛媛県内の耕作放棄地で栽培された資源米を買い取り、加工場へ送り、独自のバイオマス素材として利用しています。本来廃棄される愛媛のお米を資源としてアップサイクルする仕組みも生まれました。1トンの収穫量で生産できるハブラシは、なんと20万本にものぼります。
また、愛媛県産のライスレジンハブラシを県内で製造・販売することで、稲作から消費までが県内で循環できます。
まさに地産地消を実現し、環境と地域の両方に貢献するモデルが形になっています。
脱炭素への目標を通して、具体的な課題に気づく
本事業を通じて、自社製品の環境への貢献度を可視化できたことは、弊社にとって大きな成果でした。資材の搬入、製造、廃棄といった各プロセスで、どれほどのCO2排出量があるのか、どこに問題があるのかを具体的に把握でき、削減目標を設定することができました。また、脱炭素化を目指すうえでは、製造現場だけでなく、サプライチェーン全体での視点が不可欠であることにも気づかされました。
脱炭素化を、新しい一歩へのきっかけに
このプロジェクトには、苦労も多くありました。しかし、経験豊富なパートナー企業と並走しながら進められる安心感や、異業種との連携、新たな販路の可能性を実感できたことは、大きな成果でした。
また、製造業にとって設備更新は避けて通ることができない問題ですが、自社資金のみで新しい機械を導入することは大きな負担となります。燃費や生産性の面で新型設備が優れていることは分かっていても、1,000万円単位の投資には大きな決断が必要です。その点、今回の取組みでは補助金を活用できたことが、弊社にとっても新たな一歩につながりました。
設備投資を通じて環境改善と事業成長の両立を目指すうえで、外部支援の存在は非常に心強い要素です。
今後、モデル製品創出を考えている企業にメッセージ
脱炭素の考え方が身近になりつつある今、自社や自社製品が環境にどのような影響を与えているのかを知るきっかけとして、この取組みは非常に有効だと感じています。
また、コロナ禍のような予期せぬ事態が再び起こる可能性も踏まえ、製造業としてはあらゆる状況でも持ちこたえられる体制を整えることが求められます。そのためにも、脱炭素化は新しい市場を切り拓くためのヒントとして、取り入れる価値のある視点ではないでしょうか。
脱炭素化の第一歩に迷われている企業の皆さまにも、信頼できるパートナーとの連携を通じて、新たな市場への挑戦に踏み出していただきたいと願っています。
企業概要
山陽刷子株式会社は、愛媛県伊予市に本社を置く、ホテル・旅館向けアメニティ用品の製造メーカー。歯ブラシをはじめとする製品を自社で国内生産し、高品質と環境配慮を両立。再生素材やバイオマス素材を使ったエコ製品の開発にも注力している。