海運、産業プラント、EV領域まで決して止まらないインフラを構築
2025年12月19日
塗装工程のCO2排出量を削減した保安用発電設備(自動始動発電機盤、発電機フィーダー盤)
船舶用電装品などの産業用電機製品を手がけるBEMAC株式会社は、持続可能なものづくりの一環として、発電機盤およびフィーダー盤の製造において、『高耐食性めっき鋼板』を採用するなど製造時のCO2排出量削減に取り組んでいます。
BEMAC株式会社 製造管理部 部長・近本秀一郎さん(写真左)、製造本部 本部長・矢野光広さん(写真中央)、製造本部 副本部長・西山結城さん(写真右)
【事業内容】船舶、ビル、工場及び陸上プラント施設等の制御・配電・通信機器・ PM発電機(舶用軸発、風力発電)の製造、販売、工事
【本社所在地】〒794-8582 愛媛県今治市野間甲 105 番地
【TEL】0898-25-8282
【FAX】0898-25-3777
【企業HP】https://www.bemac-jp.com/
太陽光発電設備導入をきっかけにCO2削減を意識した製品造りへ
近本)産業プラント事業では、これまで主に受配電盤や制御盤などを扱ってきました。しかし近年、脱炭素への社会的要請が高まる中、環境対応型製品の開発・改良に取り組む必要性を強く感じるようになりました。
大きな転機となったのは、産業プラント事業で、太陽光発電設備を手掛けるようになったことです。この新規事業を通じて、発電効率やコストの検討にとどまらず、設計段階からのCO2削減や周辺機器の環境負荷に対する配慮も重要であると再認識しました。
こうした経験を踏まえ、BEMACでは、再生可能エネルギーの導入支援や環境配慮型設計を含む「脱炭素に向けたトータルエンジニアリング」を提供できる体制の構築を目指しています。
その一環として社内調査を進める中で、愛媛県の支援事業の存在を知り、連携を開始しました。カーボンニュートラルやグリーントランスフォーメーション(GX)の流れを受け今回「令和6年度 愛媛県ゼロカーボン・モデル製品創出支援事業」を活用し、製品改善やCFP(カーボンフットプリント)の算出にも取り組みました。
※グリーントランスフォーメーション(GX):化石エネルギー中心の産業・社会構造を、クリーンエネルギー中心の構造に転換していく、経済社会システム全体の改革への取組み
※ CFP:商品やサービスのライフサイクルを通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの。 Carbon Footprint of Productsの略。
塗装工程の見直しにより削減策を実施
排出量の算定と重点課題の特定
西山)脱炭素への取組みの一環として、産業プラント向けのフィーダー盤および発電機盤を対象に、原材料の調達から流通・販売(輸送)までのライフサイクルにおける CFP(カーボンフットプリント)を算定しました。その結果、フィーダー盤は「6,478kg-CO2eq/個」、発電機盤は「13,692kg-CO2eq/個」と評価されました。このように製品単位で排出量を可視化することで、どの工程に排出の大きな要因があるかを具体的に把握できました。
工程別にさらに詳細な分析を行ったところ、塗装工程での電力とLPG (液化石油ガス)の使用量がともに多く、全体の中でも特にCO2排出量が多い工程であることが判明しました。このボトルネックの特定は、今後の排出量削減施策を検討するうえでの非常に重要な指標となっており、改善活動の優先順位を決定するうえでの基盤情報として活用しています。
製造工程の見直しと設備導入
近本)CO2排出量が多いと特定された塗装工程に対して、弊社では高耐食性めっき鋼板の採用という具体的な対策を講じました。
従来、制御盤などの筐体には、防錆性を確保するために塗装処理を施していましたが、近年の素材技術の進展により、高い防錆性能を持つめっき鋼板を使用することで塗装工程そのものを省略できるようになりました。
この対応により、塗料の塗布や乾燥に必要な電力・LPGの使用量を大幅に削減し、製造時におけるCO2排出量を1.8%低減できました。
社内外へ広がる共感
矢野)今回の取組みの成果は今後、業界誌やWeb媒体などを通じて広く公開される予定です。これにより、他社や業界関係者からの関心や反響が期待されます。
掲載後には「こうした事業を一緒に進めたい」といった具体的な相談が寄せられる可能性も高く、GXやカーボンニュートラルに関する新たな設備投資や事業展開に繋がることが見込まれます。
今回の取組みの公開後は、外部の反応を見極めながら、市場のニーズや業界の動向を的確に捉え、次の事業展開にどう活かしていくかを慎重に検討していく方針です。
また、こうした外部評価は、社内の意識向上や投資判断を後押しする重要な要素になると期待しています。
数値で示す環境貢献が提案力強化に
西山)CO2削減効果を数値で示せるようになったことで、電力などのエネルギー消費量の削減だけでなく、関連設備全体の環境負荷削減についても、具体的に説明・アピールできるようになりました。これにより、顧客への提案力が向上し、トータルエンジニアリングとしての提供価値を高めることに繋がっています。
今後は、今回の取組みで得た知見をもとに、塗装工程にとどまらず、他の工程や部品選定においても環境配慮を広げていく計画です。最終的には、お客様に対して環境負荷の低減を一括して提案できる体制の構築を目指しています。
社員の共通理解と意識改革で次の一歩へ
矢野)本取組みを通じて、製造工程全体のCO2排出量を具体的に把握し、課題のある工程を特定できたことは大きな成果でした。さらに、管理職を含む全員が共通の知識を持ち、一体となって環境負荷低減に取り組むための基盤が整いました。これにより、社内の意識が高まり、全員が同じ方向を向いて次のステップに進む準備ができたと感じます。
SBT取得を見据えた持続可能な削減目標
近本)弊社では、SBT認証※の目標水準を参考に、生産工程におけるCO2排出量を年率4.2%削減する目標を設定しました。これにより、2030年までに持続可能な削減を実現し、SBT認証取得を視野に入れた環境負荷の低減を推進していきます。
具体的な削減施策としては、まずボイラーの待機時間短縮と温度制御幅の最適化を図り、エネルギー効率の向上を目指します。また、ライン塗装工程の完全自動化を進めることで、作業の均一化と省エネルギー化を推進します。
さらに、自家消費型の太陽光発電システムを導入し、再生可能エネルギーの活用を強化していこうと考えています。
こうした施策を通じて、CO2排出量の削減効果の最大化を目指すとともに、進捗状況を定期的にモニタリング・報告する体制を整え、持続的な改善を続けていく予定です。
※SBT認証:温室効果ガスの削減目標が、科学的根拠に基づいて設定されていることを第三者が検証し、認定するもの
今後、モデル製品創出を考えている企業にメッセージ
近本)2050年までのカーボンニュートラル達成は、もはやすべての企業にとって避けられない世界的課題です。早めに対策を進めておくことで、将来的な規制や制度の変化にも柔軟に対応できる体制が整います。実際に取り組んでみて、環境対策は、先手必勝の部分が大きいと実感しました。スピード感を持って、まずはできることから一歩踏み出してみて下さい。
西山)これからモデル製品の創出を考えている企業の皆様には、まず自社の現状を正確に把握すること、そして積極的に情報収集やネットワーク構築に取り組むことを強くおすすめします。そして、補助金や支援制度を活用しながら、早期に取組みを始めることで、持続可能なビジネスモデルの実現に近づけるはずです。
矢野)大切なのは「自社の現状を正しく把握すること」です。今回の事業を通じて、自社の立ち位置やCO2排出の実態を明確にできたことは、取組みの第一歩として非常に大きな意味がありました。
情報収集の難しさや支援制度の活用については、多くの企業が課題を感じていると思います。ですが、省庁や自治体の補助事業を積極的に調べて活用し、自社の取組みを外部に発信していくことが、社内外の意識を高め、事業を推進する原動力になると思いますので、ぜひ挑戦してみて下さい。
企業概要
1946年、漁船向け蓄電池の販売・充電を行う「渦潮電機商会」として創業したBEMAC株式会社は、船舶用電装品をはじめとした各種産業用電機製品の開発・製造・販売を展開する技術系メーカー。電気技術を中核とした確かな設計・製造力により、国内外の海事産業に向けて信頼性の高い製品・サービスを供給し、グローバルな競争力を築いている。