つくる側から、つなぐ側へ。愛媛発の太陽光パネルリユース事業
2025年11月27日
太陽光パネルの適切な定期検査、取外し、梱包、運搬収集
太陽電池製造装置の開発・販売を行う株式会社エヌ・ピー・シーは、愛媛発の新たなゼロカーボン・ビジネスモデルとして、太陽光パネルのリユース・リサイクル事業を開始。地元企業と協働しながら、リユースやリサイクルを通じた新たな価値創造を目指す事業に取り組んでいます。
株式会社エヌ・ピー・シー 代表取締役社長 伊藤 雅文 さん(写真左) 、装置関連事業部、営業部 伊藤 真菜 さん(写真右)
【事業内容】太陽電池製造装置、FA装置、太陽光パネルリサイクル装置、 検査サービス、DC側発電量分析など
【本社住所】〒791-8044 愛媛県松山市西垣生町2889
【電話番号】0896-58-5286
【FAX番号】0896-58-8041
【企業HP】 https://www.npcgroup.net
分科会から始まった地域連携の挑戦
伊藤真菜)弊社は、太陽光発電に関する製品やサービスを幅広く展開しています。主に、太陽光パネルの製造装置・解体技術の開発や販売、発電システムの試験・保守などを行っています。
今回の「令和6年度愛媛県ゼロカーボン・ビジネスモデル創出事業」へ応募するきっかけとなったのは、2年前に発足した分科会の存在でした。
この分科会には、大学、金融機関、産業廃棄物処理業者、リサイクル企業、ガス会社など、エネルギー・資源に関わる9団体が参加しており、弊社もその一員として活動しています。使用済み太陽光発電設備を、地域内でどのように循環させていくかをテーマに、それぞれの専門性を活かしながら、リユースやリサイクルの仕組みを模索していました。
その中で、「愛媛県ゼロカーボン・ビジネスモデル創出事業」の存在を知りました。地域の企業・団体とともに、持続可能で革新的なビジネスモデルの構築を目指せることに魅力を感じ、応募を決めました。
特に私たちが課題としたのは、自然災害による浸水被害や、設置場所の変更に伴って撤去された太陽光パネルの扱いです。これらのパネルの多くは、適切な検査・整備を行えば、再利用が可能です。しかし、現状ではリサイクルやリユースされることなく多くが廃棄され、しかもその大半が埋め立て処分されているのです。このままでは、不法投棄や産業廃棄物の埋立地不足など、さらなる環境問題を招く恐れがあります。
こうした課題の解決を目指すと同時に、県民や事業者の意識向上を促し、環境負荷の低減、持続可能な社会の実現、さらには新たな産業や雇用の創出を通じて地域経済の発展に貢献したい。そうした想いから、本事業がスタートしました。
廃棄問題とリユースの必要性
伊藤雅文)2012年、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の導入により、太陽光パネルが急速に普及しました。現在、日本では設置から10年以上経過したパネルが増えており、今後は大量廃棄の時期を迎えると予想されています。
太陽光パネルの耐用年数は約20年といわれていますが、必ずしも使えなくなるわけではありません。発電効率は徐々に低下しますが、多くは引き続き使用が可能です。にもかかわらず、まだ使えるパネルが廃棄されてしまうケースも少なくないのです。
つまり、視点を変えれば、使用済み太陽光パネルの大量廃棄物問題を新たなビジネスチャンスと捉えることもできるということです。「リユース・リサイクル可能であることの周知」「再利用可能なパネルの選別・整備」「再活用の仕組みの構築」これらを軸に、リユースパネルを活用した発電所や、適切なパネルリサイクルを通じて、愛媛県独自のビジネスモデルを企画することとなりました。
実証実験による現場検証と技術開発
伊藤真菜)まずは、太陽光パネルのリユース・リサイクルを実現するために、撤去された太陽光パネルを使った一連の実証実験を実施しました。
撤去予定の発電所では、安全性・出力・不具合などを適切に検査。取り外し済みのパネルは、弊社工場にて発電能力や断線の有無などを詳しく確認しました。
太陽光パネルは大きな強化ガラスで覆われており、扱いには高度な技術が求められます。水を通さないよう強力に接着された構造のため、ガラスの分離は容易ではありません。また、強化ガラスは衝撃に弱く、ヒビが広がりやすいため、割らずに取り外す技術力が必要です。いかに効率的かつ安全にリサイクルできるかが、今後の大きな課題となります。
さらに、再設置場所への運送においては、破損防止・発電防止・飛散防止の観点から、適切な梱包方法の開発と運搬ルートの検討を行うなど、地元の事業者と協力しながら進めています。
「作る側」だから「分解する側」にもなれる
伊藤雅文)私たちは本来、太陽光パネルを作る側の企業でした。しかし今回の事業は分解する側としての技術開発が中心になっています。
弊社が開発した特許技術「ホットナイフ分離法」は、太陽光パネルのガラスを割ることなく、ガラスとセルシートを分離できる技術です。この方法では、分離後に材料を選別する必要がなく、そのままリサイクルに活用できる点が特徴です。
伊藤真菜)現在、ヨーロッパでは環境への関心が非常に高く、太陽光パネルの導入も日本以上に進んでいます。弊社の分解技術は、その高いリサイクル性が評価され、すでにフランスやチェコなどで導入が始まっています。日本発の技術が、グローバルなリユース・リサイクルの流れを支える手段のひとつとなりつつあることは、大きな成果だと感じています。
リユースパネル発電所の実証実験
伊藤真菜)今回、愛媛県内では初めてとなる公共施設へのリユースパネル設置に向けて、愛媛県総合運動公園ニンジニアスタジアムに、リユースパネル18枚を設置し、実証実験を行いました。
この実験では、電力系統に接続せず、電力を自給自足する「オフグリッド方式」を採用しました。この方式の特徴は、災害時にも独立して電力供給が可能であること、他の電源の影響を受けずに運用できることです。
設置の結果、事前に検査された太陽光パネルであれば、十分な発電性能が確認でき、リユース発電所としての実用性が示されました。温室効果ガスの削減効果としては、今回使用枚数が少なかったため、削減量は「2.39(t-CO2)」となりました。今後、多くのリユース・リサイクルパネルの利用が拡大すれば、さらなる温室効果ガス削減が期待できると思います。
地域を巻き込んだゼロカーボン社会の構築へ
伊藤雅文)今回の検証結果から、リユースパネルを用いた発電所でも、事前に安全性と発電性能が確認されていれば、問題なく運用可能であることが実証されました。ただし、新品の太陽光パネルと比較すると、使用できる年数は短くなる可能性があるため、定期的な安全点検や発電性能の確認が今後の課題です。
一方で、リユースパネルは安価に入手できるというメリットがあります。太陽光パネルの廃棄を減らし、リユースパネルによる発電所の運用を進めることは、コスト削減と再資源化の両面で有効な手段であり、新たなビジネスモデルとして十分に成立すると考えています。
ガラスリサイクルへの挑戦
伊藤真菜)弊社は、分解された太陽光パネルに使用されているガラスの再利用にも取り組みました。このガラスは、一般的な透明ガラスとは異なり、片面にざらつきのある質感を持っているため、住居用の窓ガラスなど透明度が求められる用途には再利用が難しいのが現状です。
そこで今回は、一般市民への訴求効果を重視し、アップサイクルの取組みを行いました。
太陽光パネルの一般的なサイズ(1640mm×990mm×3.2mm)のガラスを使用し、愛媛県を紹介するオブジェクトパネルを製作。スタンドには愛媛県産ヒノキとスギを使用し、ガラスのパーツを組み合わせて愛媛県のイメージアップキャラクター『みきゃん』をあしらったデザインを施しました。パーツを組み合わせる工程は、地元の福祉作業所と協力し、全て手作業により制作しています。
このオブジェクトは、松山観光港に設置されており、観光客や地域住民に向けて、太陽光パネルのリサイクル意義を広く発信できる展示物となりました。
リユースパネルを活用したレタス栽培
今回の事業に先立ち、自社建屋の屋上にリユースパネルを設置し、自家発電による循環型のビジネスを展開しています。
その一つが、リユースパネルによって発電した電力を活用したレタスの人工栽培です。松山工場の一角に人工光植物工場を設置し、密閉性の高い室内でLEDを用い、水耕栽培によるレタスの生産を行なっています。
このレタスは『はこひめ』というブランド名で愛媛県内に流通しており、サステナブルな社会の実現に向けた取組みの一環としてビジネス全体をパッケージ化して紹介しています。
このように弊社にとってもリユースパネルの導入はゴールではなく、新たな事業のスタートでもありました。
協業によって生まれる「できること」を一歩から
伊藤真菜)営業部で販売を担当する中で、私たちが取り組んでいる太陽光発電事業そのものが、「環境に良いことをしたい」という想いから成り立っていることを実感しています。
また、リユースパネルを検討・導入してくださる企業の皆さまも、環境への意識が非常に高く、その姿勢に日々刺激を受けています。協力会社の皆さまやお客さまなど、関わるすべての方が環境問題に真摯に向き合っておられ、そのような方々と仕事ができることは、大きな学びであり、私自身のモチベーションの源にもなっています。
これから環境事業に取り組もうと考えている皆さまにも、ぜひ前向きな一歩を踏み出していただきたいと思います。未来をつくる仲間として、一緒に歩んでいけることを楽しみにしています。
伊藤雅文)今回の取組みを通じて実感したのは、「一社では難しいことも、複数の企業が協力すれば実現できる」ということです。分科会に集まった企業は、脱炭素社会の実現という共通の想いを持ち、それぞれの強みを活かしてきました。技術や知見を持ち寄ることで、新たな可能性が広がったと感じています。
いまや、どのビジネスにおいてもCO2削減や環境対応は避けて通れない課題です。製品や技術の品質を高めることは、発電効率の向上につながり、結果としてCO2削減に貢献します。良い製品を作ることが、環境問題の解決にも直結する。私たちは、そう信じて取り組んでいます。
そして、地域や環境のために何かしたいと思っている企業は、実は意外と多いのではないでしょうか。まずは声を上げることから始めて、一歩を踏み出すことが大切だと思います。
企業基本情報
1992年創業。真空ラミネーターから配線装置や検査装置など、各種の太陽電池製造装置を次々に開発・製造してきた。太陽光発電にはなくてはならない会社として多くの技術と知見を持ち、いまでは電子部品や自動車など、国内外問わずさまざまな業界でその技術が展開されている。