牛乳パックが新素材に生まれ変わる!新パルプ素材が切り拓く循環型社会
2025年11月13日
ラミネート古紙を用いた脱プラ製品のビジネスモデル
愛媛県四国中央市の再生資源を活用した素材メーカーであるAIPA株式会社は、使用済み紙パックなどから再生パルプを製造・販売するほか、紙とプラスチックを融合させたハイブリッド素材『パルプマスターバッチ』を開発。再生パルプを含むプラスチックでカードケースを作成し、広報活動にも活用しています。
※パルプ:製紙の原料となる植物繊維の集合体
AIPA株式会社 マーケティング部 課長 神原聖史 さん、販売課 水関裕紀 さん
【事業内容】古紙100%再生パルプ製造事業、製紙スラッジ焼却処分事業、ECOREA製品共同販売事業、パルプ販売事業
【本社住所】〒799-0101 愛媛県四国中央市川之江町415-1
【電話番号】0896-58-5286
【FAX番号】0896-58-8041
【企業HP】 https://aipa.or.jp/
ラミネート古紙のアップサイクルでコスト削減と環境負荷の軽減を実現
神原)弊社は設立以来、古紙100%を活用した再生パルプの開発に取り組んできました。その中で牛乳パックなどに使われているラミネート部分の処理コストが課題となっていました。
紙パックの両面にはラミネートが施されており、再生パルプ化の工程では、紙繊維とラミネート部分を分離する必要があります。紙繊維は再生パルプとして再利用できますが、ラミネートに含まれるプラスチックは廃棄物として焼却処分されていました。弊社でも年間約2000トンの廃プラスチックが廃棄物として発生しており、処理コストが大きな負担となっています。
そこで、これまで廃棄していたラミネート部分を紙繊維と共に再利用し、丸ごとプラスチック原料として活用できないかと考えたことが、『パルプマスターバッチ』開発の出発点でした。
また、製紙産業が盛んな東予地区では、CO2の排出量が非常に多く、同地区からの排出だけで愛媛県全体の約60%を占めています。そのため、地域全体にとってCO2削減が重要な課題となっています。
ラミネート古紙をプラスチックにアップサイクルし、焼却を減らすことは、CO2排出量の削減にも直結します。
コスト削減と環境負荷の軽減という二つの課題を同時に解決すべく、令和6年度愛媛県ゼロカーボン・ビジネスモデル創出事業の採択を受けて、ラミネート古紙を再利用した減プラスチック製品の開発に取り組むこととなりました。
相容れない素材を複合化した革新技術
神原)はじめに、牛乳パックなどのラミネート古紙を丸ごと乾燥粉砕します。 続く工程で粉砕した牛乳パックとプラスチックを複合化しますが、紙繊維とプラスチックは水と油のように相容れない性質があるため、単純に混ぜただけでは素材として活用ができません。
そこで、粉砕したラミネート古紙に薬剤を加えながら加温し、パルプ繊維に特殊コーティングを施す事で、親水性のパルプを疎水性へと改質しプラスチックとの複合化に成功しました。通常のコピー用紙などをリサイクルしたパルプと比べ、ラミネート古紙を用いたパルプでは、もともと含まれるラミネート部分がプラスチック原料として機能するため、新たに加える樹脂が少なく済むという特長があります。
また、完成した素材を射出成形する際の使用感を調査するためにカードケースを作成した結果、牛乳パック配合プラスチックは、一般プラスチック原料と同様に使用することが可能であることも判明しました。
作成したカードケースは、新素材の広報・販促PR活動に使用しています。
試行錯誤の末にたどり着いた品質の安定化
神原)この複合化の過程では、多くの試行錯誤を重ねました。
初期段階では、パルプとプラスチックを混合した際にダマができてしまい、見た目が悪くなるだけでなく、強度にも問題がありました。粉砕の条件や表面処理加工の方式、薬剤の添加量などを何度も調整しながら、ようやく安定した品質にたどり着きました。
水関)私は、当事業で製造を担当しています。通常のパルプはコピー用紙など柔らかい素材が多いのに対し、牛乳パックは硬く厚いため、粉砕に時間がかかり、生産効率が大きな課題となりました。
そこで、粉砕工程を見直し、最初に荒く破砕することで処理スピードを向上させ、生産量を増やす工夫を行いました。
社会のニーズとの一致を展示会で実感
神原)展示会に出展すると、環境に貢献できる素材として『パルプマスターバッチ』がまさに今求められている製品だと実感します。
展示会来場者の多くは、既存商品に新たな付加価値を加えたいと考えておられます。
そして今、その付加価値の中心にあるのがカーボンニュートラルへの対応です。さまざまな業界で、CO2削減に役立つ素材を探している動きが活発になっており、弊社のブースにも「詳しく話を聞かせてほしい」とお声がけいただく機会が増えています。展示会を通じて、社会のニーズと弊社の取組みが合致していることを強く実感しています。
モデル創出により生まれた新たな事業の柱
神原)社会的な成果としては、CO2削減に貢献できる原料を開発できたという点が大きな意義です。今回、弊社が開発したラミネート古紙を活用した原料は、もし愛媛県内で使用されているプラスチックをこの原料に置き換えた場合、年間でおよそ3万トンのCO2削減が可能であるという検証結果が得られています。
また、企業としてのメリットも大きく、これまで再生パルプの製造・販売が中心だった弊社にとって、新たなリサイクル原料として紙パックなどを有効活用できるようになったことは、新事業の柱となる可能性を示しています。
この取組みを通じて、ハイブリッド型の事業モデルとして本格的に展開する足がかりができ、企業としての新たな方向性を築くきっかけにもなりました。
今後の配合率の課題
神原)今後は、紙繊維の配合率をさらに高めることが課題です。
現在の紙繊維の配合率は20%〜30%ですが、今後は51%以上への引き上げを目指し、プラスチック原料としての機能を保ちつつ、より環境負荷の少ない素材開発に取り組んでいます。
また、現在弊社では、ポリプロピレンとポリエチレンの2種類の樹脂に紙繊維を配合しています。
しかし、プラスチック樹脂にはこの他にも多くの種類が存在します。現時点では、他の樹脂への応用は技術的に課題がありますが、今後はさまざまな樹脂への展開も視野に入れ、さらなる製品開発を進めていきたいと考えています。
今後、環境事業を考えている企業へメッセージ
水関)私自身、誰もやったことのない取組みに関われたことは、本当に大きな経験になりました。ゼロからイチを生み出すプロセスに携わることで、その後の展開や可能性についても、前向きに考えられるようになります。
だからこそ、多くの方に挑戦することを恐れずに進んでほしいと思います。初めての取組みには不安も伴いますが、挑戦したからこそ見える景色があります。ぜひ、自分たちの力を信じて、新しい一歩を踏み出してみてください。
神原)人材や資金など、さまざまな制約から新しい取組みに踏み出せずにいる企業も多いかもしれません。ですが、まずは一歩を踏み出してみることが大切です。動き始めることで、新たなチャンスが見えてきますし、愛媛県では補助金などを通して中小企業を資金面からサポートしてくれますので、臆せず挑戦してみてほしいと思います。
また、日頃から情報収集のアンテナを高く保つことも欠かせません。ヒントは意外と身近なところにあるものですが、意識していないと、日常業務に追われて見過ごしてしまいます。発想を形にするには、知識や技術を持った人との連携も重要です。信頼できるパートナーとともに、一歩ずつ進めていくことが、確かな前進につながると感じています。
企業概要
1969年愛媛県内の中小製紙会社の共同出資により「愛媛パルプ協同組合」として設立され、古紙再生パルプをグループ会社へ原料として供給する事業を展開。
2021年には、通称であるAIPA(アイパ)を社名として協同組合から株式会社に組織変更し事業を行っている。