「薬局」という枠を超え、地域から持続可能な未来を目指す脱炭素事業
2026年03月26日
愛媛県今治市に6薬局を展開する株式会社平野は、経営指針に環境経営を位置づけ、社員一丸となり脱炭素事業に取り組む、えひめゼロカーボン・チャレンジ認定企業です。
「薬局」という枠を超え、地域にまで働きかける幅広い取組みについて、取締役会長の平野啓三氏、代表取締役の松田泰幸氏、総合事務の小林里菜氏の3名にお話しを伺いました。
株式会社平野
1980年(昭和55年)に創業。今治市で最も長い歴史を持つ調剤薬局として地域の医薬分業に貢献している。現在は市内で6薬局を展開(2025年1月時点)。かかりつけ薬局として活躍するかたわら、健康教室や料理教室、農業体験イベントなど、地域の暮らしの質を高めるための取組みを実施している。
【事業内容】 薬局、健康生活支援業
【代表取締役社長】 松田 泰幸 氏
【本社住所】〒794-0028 愛媛県今治市北宝来町2丁目2-22
【電話番号】0898-32-0255
【企業HP】 https://www.hirano-pharmacy.co.jp/
地域の健康づくりのために、脱炭素事業をスタート
平野)私たちは、保険調剤および医薬品販売を生業としているため、薬を包装する箱やフィルムなど、多くの廃棄物を日常的に排出しています。
以前は深く気にしていませんでしたが、弊社が所属する中小企業家同友会全国協議会の会員による脱炭素への取組みを知るうちに、廃棄物の中にはリサイクル可能なものが数多く含まれていることに気付きました。
松田)また、日々地域の健康と向き合う中で、健康と環境が「表裏一体な存在」であることを再認識したことも、取組みを始めたきっかけの一つです。
人は、猛暑の日には熱中症や脱水症状を起こし、寒い日には風邪をひきやすくなります。薬局として地域の健康づくりを考えるうえで、環境問題は非常に重要な要素だと感じています。
これらの気付きを経て、私たちは「薬局が目指すべき本質は、健康で環境に優しい暮らしの実現である」という考えに至り、2009年(平成21年)より本格的に脱炭素への取組みを開始しました。
社員全員で取り組む、脱炭素への歩み
全社員で環境教育検定である『eco検定』を受験、『エコアクション21認証』を取得
松田)まずは環境に関する知識を身につけようと考え、東京商工会議所主催の『eco検定』を全社員で受験しました。それ以降、環境について学び、eco検定を受験することを採用時の条件としています。
初回受験から時間が経過したことを受け、2019年には全社員で再受験。その結果、複数回合格した者へ贈られる称号『eco検SEEKER』を取得した社員もいます。
また、2013年(平成25年)からは『エコアクション21認証』を取得し、以降は毎年『環境レポート』を公開しています。
※エコアクション21認証…環境省が策定した日本独自の環境マネジメントシステム。一般に、PDCAサイクルと呼ばれるパフォーマンスを継続的に改善する手法を基礎として、組織や事業者等が環境への取組みを自主的に行うための方法を定めている。
※環境レポート…企業等が環境に配慮して行った内容を環境業績としてまとめ公表する報告書。
6薬局中4薬局に太陽光パネルを設置し自家消費、その他薬局にも100%再エネ由来の電力を使用
松田)現在、今治市内に6薬局を展開しており、そのうち平野拝志薬局(発電容量:11kw/太陽光パネル:40枚)、平野ごう薬局(発電容量:10kw /太陽光パネル:33枚)、平野みらい薬局(発電容量:16.5kw /太陽光パネル:67枚)、まつだ薬局(発電容量:8.95kw /太陽光パネル:40枚)の計4薬局に、補助金を活用して太陽光パネルを設置しています。ここで発電した電力は、各薬局で自家消費しています。
また、弊社は2021年(令和3年)から『再エネ100宣言 RE Action』に参加しており、太陽光パネルを設置していない薬局についても、再生可能エネルギー由来100%の電力を扱う会社から電力を購入することで、会社全体として脱炭素に取り組んでいます。
平野)上記のうち、平野拝志薬局には災害時の停電などを想定してV2Xを採用し、電気自動車から供給される電力を、夜間や雨天時に活用しています。2025年(令和7年)3月には今治市で山林火災が発生しましたが、当薬局では通常業務の完全停止を免れることができました。
※再エネ100宣言 RE Action…企業、自治体、教育機関、医療機関等の電力需要家が使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示すことで市場や政策を動かし、社会全体の再エネ利用100%を促進する枠組み。
※V2X…Vehicle to Everythingの略称。電気自動車と太陽光パネル等を接続し、電気自動車と再エネを効率的に利活用するシステム。
環境と地域への配慮が詰まった「平野みらい薬局」
松田)2019年(令和元年)に開設した「平野みらい薬局」は、社員同士で「どのような薬局があったらいいか」を意見し合い、それをもとに構想した薬局です。
そのため一般的な薬局の設備に加え、相談スペースや料理教室のためのキッチン、ヨガ教室などが開催できるイベントスペースを設けています。
さらにエコショップも併設し、デザイン性に優れた環境配慮型の商品を手に取ってご覧いただけます。
建物には、四国内の木材を利用した『CLT工法』を採用し、建物そのものが環境に優しい存在となることを目指しました。
また、安定した地中熱を活用する換気システム『ジオパワーシステム』を導入し、少ない冷暖房でも効率よく快適な空間を作ることが可能です。
※CLT工法…ひき板を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。木の香りや温もりを感じる空間となるだけではなく、CO2排出量削減や森林資源の有効活用にも貢献する。
ジオパワーシステム…地中熱を利用し基礎空調を行う24時間換気システム。
社用車として電気自動車を3台導入
松田)3台の電気自動車を社用車としてリースし、薬の配達から日常の移動まで、社員に幅広く利用してもらっています。使用用途をあえて制限しないことで、日々のささいな移動から脱炭素に貢献できる環境を整えています。
また、電気自動車を走らせるために必要な電力は、薬局に設置した太陽光パネルで賄っています。
えひめゼロカーボン・チャレンジ企業として、着実に脱炭素を目指す
平野)これらの取組みから、弊社は愛媛県の『えひめゼロカーボン・チャレンジ企業』に認定されています。制度創立時から認定企業として歩んできた先駆者として、2050年のカーボンニュートラルの実現をこれからも目指していけたらと考えています。
FEC自給圏の実現に向けて、『ひらのうえんプロジェクト』を実施
松田)FEC自給圏の実現に向けて始めた『ひらのうえんプロジェクト』では、休耕田を含む農地を活用し、米づくりや芋づくりを行っています。農家の皆さんの力をお借りしながら、一般の方にも食糧自給を体感いただける場です。
こうしたイベントを通して、子どもたちが幼いうちから農業を経験することは、FEC自給圏の実現を目指すうえで重要なポイントだと考えています。そのため、家族で楽しめるイベントとなるよう内容を工夫し、地域の方々へ積極的に声をかけています。
また、畑の上には太陽光パネルを設置し、農地で食糧を作ると同時に、エネルギーも生み出せる設備を整えています。
平野)現在、このプロジェクトで生産した米から米粉を作り、地域でパンなどの原料に活用する取組みを、実験的に進めています。
稲は背丈が高くならないため台風に強く、一定の収量が見込めるという特長があります。その特性を活かして、安定的に米づくりを行い、製粉した米粉を使って、地域のパン屋と協力しながら商品化できるようなおいしい米粉パンを作れないかと構想しているのです。この取組みに休耕田を活用すれば補助金の対象にもなり、水田機能や地域の景観の維持にも繋がります。
農家が減少していく状況において、私たちは「食べる人」だけではなく、「つくる人」への支援も重要だと考えています。これを『CSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)』と呼びます。この考え方を、地域に広めていきたいです。
※FEC自給圏…Food(食糧)・Energy(エネルギー)・Care(医療・介護)において、可能な限り地域内で自給することを目指す考え方。
脱炭素への取組みを経て社員の意識が向上し、企業として成長
松田)これまで述べてきたような脱炭素への取組みを着実に実行していく中で、社員一人ひとりの意識が高まり、企業文化や人材の成長にも繋がっていると感じています。始めた当初は、うまくいかないことや失敗も多くありましたが、それらを乗り越える経験が成長に繋がっています。
小林)私の世代は高校生の頃からSDGsを授業で学んでいたため、その存在自体は知っていましたが、具体的に自分に何ができるかまでは分かっていませんでした。
株式会社平野に入社して、SDGsの目標を意識するというよりも、日々の業務の延長線上として脱炭素に取り組む会社の考え方に触れ、とても救われました。自分のささいな行動が環境改善に繋がっているという意識に変わり、業務以外の日常生活の中でも自然と気を配れるようになりました。
10年ビジョンをもとに、地域の持続可能性を支える担い手を目指す
松田)私たちは、2035年(令和17年)にかけた10年ビジョンを「ウェルビーイングな日常を支える薬局へ~健康・食・エネルギー自給でつながる地域づくり~」と定めました。
このビジョンでは、薬局の役割にFEC自給圏の形成を組み込み、薬局が「健康の拠点」としてだけでなく、「地域の持続可能性を支える担い手」になれるような、新しい価値を創る10年を目指すためのものです。社員とともに将来のありたい姿を明確に描くことができたからこそ、これから一つ一つ実現させていきます。
持続可能な暮らし方や発展のあり方は、その地域に住む人自身が考え、行動をしていかなければなりません。私たちは、その役割を担える人材育成の拠点となり得る薬局を、今後も目指していきたいと考えています。
子や孫の世代に、住みよい環境を受け継いでいくために
平野)弊社としては2009年(平成21年)から脱炭素事業に取り組んできましたが、それでも地球温暖化は進行し続けています。
人間が生きている限り、CO2は排出されます。つまり、私たちは誰もが地球温暖化に加担しているということです。その事実から目を背けず、自分たちも加害者の一員であるという意識を持ったうえで、日々の生活や企業活動を行っていかなければなりません。
次の世代に住みよい地球環境を残していくために、環境問題に関心を持ち、学び、地域でできることを考え、一つひとつ実行していきましょう。