愛媛だから、できる。 EVの普及とバッテリーの資源循環で地域と歩む脱炭素事業

愛媛日産自動車の「えひめEVサーキュラーエコノミー」構想図

愛媛日産自動車株式会社は、電気自動車(EV)の普及を通じて持続可能な地域社会を実現するため、使用済みバッテリーを地域内で再資源化する「地域完結型EV資源循環モデル」の構築や、中古EVの性能を証明し残価を保証する日本初の専用保険の開発など、従来のディーラーの枠を超えた革新的な取組を進めています。脱炭素を経営の核に据えた事業戦略について、経営管理本部イキイキ推進室長の藤本昌弘氏、営業本部EV/LV推進室長の菅雄一郎氏、イキイキ推進室総務グループアシスタントマネージャーの深井健太氏にお話を伺いました。

※LV(Life Care Vehicles)...高齢者や介助が必要な人も安心して利用できるよう、乗り降りのしやすさや使いやすさに配慮した福祉車両のこと。

愛媛日産自動車株式会社

1956年(昭和31年)に設立。新車・中古車販売やアフターサービスを展開。近年では脱炭素経営を加速させ、太陽光発電を活用した災害に強いショールームの整備、全国的にも珍しい福祉車両と電気自動車の常設展示『のるサポステーション』の運営など、地域課題解決に直結する事業に注力している。

【事業内容】日産自動車の新車販売、中古車販売、車検整備及び点検・修理、自動車部品及び用品の販売、損害保険代理店業務(ディーラー特級代理店認定)
【代表取締役社長】岡 豊
【本社住所】〒790-0065 愛媛県松山市宮西2丁目8-27
【電話番号】089-924-4123(代表)
【FAX番号】089-924-1423
【企業HP】https://ni-ehime.nissan-dealer.jp/top.html

愛媛日産自動車の外観

バックオフィスから攻めの経営へ。イキイキ推進室の誕生

菅)私が社内で脱炭素への取組を推進してきた背景には、日産自動車のEVが持つポテンシャルへの揺るぎない信頼があります。日産自動車は世界に先駆けてEVを市場に投入し、10年以上にわたりバッテリーの安全性や耐久性を磨き続けてきました。この長年の実績に裏打ちされた信頼性と実用的な航続距離を兼ね備えた、日産ならではの製品価値を地域の皆さまに届けることこそ、販売店である私たちの使命だと考えています。

2021年(令和3年)にEV推進担当に就任して以降、この製品価値を軸に、経営側に脱炭素経営の必要性を提案し続けてきました。

当初は、社内でも具体的なイメージを描きにくいテーマでしたが、提案を重ねることで、この活動が地域や自社の未来にどのような価値をもたらすのか少しずつ理解が深まっていきました。活動の本格化に伴い、この取組を持続可能な形として社内に定着させるため、2024年(令和6年)の経営会議において、組織としての正式な体制づくりを経営側に提案しました。

菅雄一郎さんの写真
営業本部EV/LV推進室長 菅雄一郎さん

藤本)「イキイキ推進室」は、経理・総務・人事を統合した部署ですが、単なる管理部門ではありません。EV/LV推進室が進めてきたSDGsやCSR、そして脱炭素経営といったテーマに主体的に取り組み、会社全体を牽引していく攻めの経営の拠点として機能しています。
日産自動車は中期環境行動計画『NGP2030』を掲げ、電動化を通じたカーボンニュートラルの実現に注力しています。EVを中核とするブランドの販売店である私たちが、その戦略に歩調を合わせることは、極めて自然であり不可欠な選択でした。

※NGP2030...日産自動車の中期環境行動計画。2050年までのカーボンニュートラル実現に向け、車両の電動化や資源循環の加速を目的とした具体的な活動方針を定めている。

藤本昌弘さんの写真
経営管理本部イキイキ推進室長 藤本昌弘さん

自社での実践が説得力を生む。再生可能エネルギーの活用と日本初のショールーム活用

菅)弊社は、2022年(令和4年)から太陽光発電の導入を進めてきました。最大の理由は、「自分たちが実践していなければお客さまへの説得力が生まれない」と考えたからです。松山市環境部の担当者から「EVはグリーンエネルギーで走らせてこそ真価を発揮するのではないか」という言葉をいただき、その一言が強く印象に残りました。車の環境価値を伝える以上、まずは自分たち自身が取り組むべきである。そう考え、自社での再生可能エネルギーの活用を決断しました。

藤本)現在は、松山インター店に約90kW、西条店に約100kW、新居浜萩生店にも約100kWの太陽光パネルを設置しています。松山インター店と西条店では、オンサイトPPAモデルを採用し、新居浜萩生店では自家消費型として導入しました。

※オンサイトPPAモデル...発電事業者が需要家の敷地内に太陽光発電設備を設置・所有し、発電した電力を需要家が長期契約で購入する仕組み。

太陽光パネルの写真
設置した太陽光パネル

菅)少子高齢化の進行により、自動車販売を取り巻く環境は大きく変化しています。その中で、ショールームの在り方を見直す過程で生まれたのが『のるサポステーション』です。ここでは全国的にも珍しい福祉車両の常設展示を行っています。さらにEVの常設展示を組み合わせており、日産系ディーラーとしては、当時日本初の試みでした。
『のるサポステーション』には、太陽光発電に加えV2Hを導入することで、災害時には非常用電源として機能する体制も整えています。停電時でもショールームの約半分の照明とコンセントが使用できる設計です。現在は自治体と連携し、一時避難所としての活用も進めています。

※V2H...EVに蓄えた電力を家庭や施設に供給するシステム。災害時の非常用電源としても活用できる。

電気自動車の展示
『のるサポステーション』内に展示されている電気自動車
電気自動車と電気ストーブの写真
電気自動車の電気で電気ストーブを稼働させる様子
V2H機器の写真
V2H機器

EVバッテリー資源循環プロジェクト『えひめEVサーキュラーエコノミー推進協議会』

愛媛を資源の終着駅から再誕の拠点へ

菅)弊社代表・岡は「EVを通じて地域に貢献したい」との強い思いを持っており、EVの新たな普及・活用策を検討していた愛媛県環境・ゼロカーボン推進課と議論を重ねる中で、官民連携でのプロジェクトがスタートしました。その後、一緒に取り組む企業が大きく増え、2025年(令和7年)10月、産官学金の協働により、EVの普及とバッテリーの資源循環を推進する『えひめEVサーキュラーエコノミー推進協議会』の設立に至りました。

当時、弊社が強く感じていたのは、国内で守られるべき資源が、その価値を十分に評価されないまま海外へ流出しているという危機感です。現在、国内の中古EVの約8割が海外へ輸出されています。海外ではそれらを単なる中古車ではなく、レアメタルを内包した都市鉱山と捉え、資源確保を目的に買い進める国も少なくありません。本来であれば、国内で循環させ、次世代産業を支えるはずの資源が国外に流出している。この現実に歯止めをかけ、愛媛の地で資源を循環する仕組みをつくることこそ、地域に貢献できる最善の道だと考えました。

愛媛県には、使用済みバッテリーを安全に解体する国内有数の実績を持つ企業や、抽出した金属を再び新車の電池原料へと精錬できる日本唯一の技術を持つ企業が拠点を構えています。解体から再生まで、業界屈指の技術力を誇るスペシャリストが同じ地域に揃っている。この環境であれば、愛媛県内で資源循環を完結できると確信しました。愛媛県が誇る独自の産業基盤と県との連携が、構想を事業へと押し上げる原動力となったのです。

愛媛日産自動車の「えひめEVサーキュラーエコノミー」構想図

見えない不安を、確かな資産価値へ

菅)国内で中古EVの流通が停滞している最大の理由は、バッテリーの劣化という見えない不安にあります。電池の寿命が不透明なために適正な価格がつかず、その結果、貴重な資源が海外へと流出してきました。この見えない不安を解消するために弊社が導入したのが、「性能証明」と「残価保証」です。

まず「性能証明」では、MobiSavi社の解析技術を用い、目に見えないバッテリーの健康状態を診断書として可視化します。メーカーを問わず電池の劣化状況を高精度に数値化できる点が最大の特徴です。これにより、これまで感覚や推測に頼らざるを得なかった中古EVの取引に、客観的な根拠が生まれました。その電池があと何年、どれだけの能力を発揮できるかを明確に示すことができます。

そして、そのデータを根拠に提供するのが「残価保証」です。将来の価値が見えない中古EVは、これまで数年後の下取り価格を極めて低く見積もられてきました。しかし弊社は、性能証明によって電池の状態を正確に把握しているからこそ、数年先でもこの価値が残るという確信を持って、買い取り価格を約束することができます。
電池の状態がデータで見えるからこそ、将来の価値を保証できる。この二つが組み合わさることで、お客さまの購入時の不安は解消され、EVは「価値を保つ資産」として選ばれる存在へと変わっていくと考えています。

社内勉強会を通じて広がる、現場のポジティブな変化

菅)脱炭素化に向けた取組と並行して、社内では全社員を対象とした勉強会を継続しています。先日も中古EVに関する新たな戦略について勉強会を実施しましたが、回を重ねるごとに、現場から前向きな質問や提案が増えてきました。知識を共有することで、単なる理解にとどまらず、「自分たちの仕事としてどう活かすか」を考える空気が生まれていると、日々のやり取りの中で実感しています。

深井)入社20年目になりますが、会社が変わっていく姿を間近で見ているからこそ、新しい知識を吸収したいという気持ちが自然と湧いてきました。今は、こうした活動を組織全体に浸透させていくことに、大きなやりがいを感じています。働く人の意識の変化が、今の弊社を前に進める大きな推進力になっていると感じています。
 

深井 健太さんの写真
イキイキ推進室総務グループアシスタントマネージャー 深井 健太さん

脱炭素事業を考えている方へメッセージ

藤本)弊社の取組が、特別に先進的だとは考えていません。県の会議などに出席すると、志の高い企業の皆様と出会い、日々多くの刺激をいただいています。大切なのは、現状に満足せず、地域の皆さまと切磋琢磨しながら、一歩ずつ着実に前へ進んでいくことだと考えています。

深井)これからの主役は、20代・30代の若い世代の方です。彼らがのびのびと新しいことに挑戦できる環境を私たちが整えていくこと。それが、次世代へバトンをつなぐ私たちの責任だと感じています。若い方の意見も積極的に取り入れながら取り組んでいけると良いのではないでしょうか。

菅)これから脱炭素に取り組もうとされている方がいれば、まずは「一緒にやりましょう」とお伝えしたいです。一社で悩むより、数社が集まれば必ず新しいアイデアや進むべき道が見えてきます。私たちはEV販売の先駆者として、これまでに積み上げてきた経験をお伝えすることができます。メーカーの枠を超え、愛媛全体で盛り上げていくことが、地域の未来につながると信じています。
 

集合写真