CO₂削減と環境保全で安全な食を提供する循環型ビジネス
2025年04月15日

マルトモ株式会社は、近年、省エネルギー投資促進支援事業費補助金(資源エネルギー庁)の活用や再生可能エネルギーの導入を積極的に進め、脱炭素に向けた取組みを本格化させています。脱炭素を進める中で直面した課題とその成果について、経理部部長 兼 経営企画部の酒井亮氏と生産本部副本部長の福本伸治氏にお話を伺いました。
マルトモ株式会社
1918年(大正7年)創業。愛媛県伊予市に本社を構える老舗食品加工製造会社。 主な製品は、かつお節や煮干しを使っただしの素、めんつゆ等。近年は「感動を、削りだそう。」という経営理念のもと市場のニーズに応じた液体調味料やチルド商品の製造・販売も手掛け 、和食文化の発展に貢献し、業界トップシェアを誇る。技術革新と市場分析を組み合わせ、さらなる企業価値の向上を目指し、新しい挑戦を続けている。
【事業内容】食品加工製造会社
【代表取締役社長】明関 眸 氏
【本社住所】〒799-3192 愛媛県伊予市米湊1696番地
【電話番号】089-982-1151
【FAX番号】089-983-5480
【企業HP】 https://www.marutomo.co.jp/

スコープ3の算出が脱炭素事業のきっかけに
酒井)弊社は、2000年頃から省エネに取り組み、スコープ1・2※の炭素排出量算出は自社で行っていましたが、原材料調達を中心とするスコープ3※のサプライチェーンの炭素排出量算出は難しく、対応に課題を感じていました。そんな中、エネルギーテック企業様から、「スコープ3まで排出量を算出できるソフトを開発したので一緒に取り組みませんか」とお声がけをいただきました。
同時期に、取引先からも脱炭素に関する数値算定への対応を求められたこともあり、2021年頃から本格的に脱炭素事業を開始しました。2023年頃からは、2030年度までの二酸化炭素排出量の具体的な削減目標を策定し、脱炭素事業を進めています。
※
スコープ1:企業や組織が事業活動によって直接排出する温室効果ガス(GHG)のこと
スコープ2:他社から供給された電気・熱の利用など企業や組織が間接的に排出する温室効果ガス(GHG)のこと
スコープ3:製品の原料調達や販売後に排出される温室効果ガス(サプライチェーン排出量)のこと

太陽光パネルの設置でさらなる脱炭素へ
自家発電設備の導入
酒井)私が所属する経営企画部では、再生可能エネルギーの導入として 太陽光パネルの設置を進めています。2025年2月に本社事務所で発電を開始しました。太陽光パネルを144枚設置し、発電出力は59.8キロワット。これにより事務所内の消費電力の約30%を賄うことができます。
また、2025年3月下旬には仙台第2工場でも、エネルギーテック企業様と協力し、オンサイトPPA※を導入して、自家発電を開始する予定です。
※オンサイトPPA(Power Purchase Agreement)は、企業が自社の敷地内に再生可能エネルギー設備(例えば太陽光発電)を設置して、その発電した電力を直接購入する契約のこと。企業が電力会社や発電事業者と契約を結び、設備は自社に設置されるが、電力供給は外部から行う形をとる。

高効率コンプレッサーの導入
福本)生産本部では、2023年度(令和5年度)の「愛媛県脱炭素型ビジネススタイル転換促進事業費補助金」を活用し、本社工場(かつお節削り工場)とだしの素工場(風味調味料工場)の2工場で、コンプレッサーの更新を行いました。
設備更新により、非効率だった旧型コンプレッサーから、高効率なインバーター制御の新型へと切り替わり、CO₂の削減に繋がっています。さらに、新型コンプレッサーはオイルフリー仕様のため、油分が混入するリスクがなくなり、製品の安全性も向上しました。
これまで設備や機械は「壊れるまで使い続ける」という方針でしたが、補助金の活用を機に「計画的に古い設備を更新することが、結果的に大きなメリットを生む」という考えに変わりました。今後も、補助金などの支援制度を活用しながら、積極的に設備の更新を進めていく方針です。

LED化とEV車の導入
本社と工場のLED化も進めています。本社事務所は既に100%LED化を達成。将来的には工場も100%LED化を目指し、順次導入を進めていく予定です。
また、自家発電設備の導入をきっかけに、社用車として電気自動車を活用しています。


情報収集の壁を乗り越え、最適な脱炭素対策へ
福本)脱炭素を進める上で、情報収集に苦労しました。これまでの方法では、新しい情報がなかなか入らず、どのような対策を取るべきかも分からない状況でした。
そんな手探りの状況の中、展示会に参加しメーカーの方と直接話をすることで、新しい技術や設備の提案を受けたり、他社の取組みを知る機会を得られました。こうした活動を通じて、少しずつ自社にとって有益な情報を得られるようになり、改善策を見つけることができました。
今後も、積極的に情報収集を行いながら、最適な脱炭素対策を検討していきます。

脱炭素を通じて生まれた社員の意識改革
酒井)弊社では、本社ビルのエントランスに設置したモニターで太陽光発電の状況を可視化し、社内掲示板で取組みを共有しています。
その結果、各部門で「自分たちにできることは何か?」と考える意識が生まれ、経営企画部に「こんなアイデアがあるけど、どうだろう?」といった相談が届いたり、社内での議論が活発になりました。これまでは、利益を最優先に考えがちでしたが、脱炭素という新たな目標を掲げたことで、利益だけでなく環境への配慮や社会的責任の重要性が社内全体で認識されるようになりました。ビジョンを共有し、目標が明確になったことで、各部門が自発的に取り組み、協力し合うようになったことは大きな進展です。

環境を豊かにすることで海を豊かに
廃プラスチックに向けた紙製パッケージ商品の開発
福本)弊社では、希少価値の高いカツオを使った削りぶし『近海一本釣り』の発売時に、初めて紙パッケージを採用しました。
きっかけは、大手食品会社がプラスチックから紙パッケージに変更し、大きな話題となったことです。環境配慮の動きが加速する中、弊社もこの流れに乗るべきだと考えました。紙パッケージの導入により価格は上がりましたが、環境に配慮した製品を選ぶお客様が増えていることを実感しています。
また、自社開発の包装機を活用し、中仕切りを不要にしたパッケージも実現しました。今後も包装機メーカーと共同開発を進めることで、二重包装の削減など、環境負荷の低減に取り組んでいきます。
『くらげチップ®』開発のきっかけ
福本)弊社は、環境に優しい土壌改良材『くらげチップ®』を販売しています。開発のきっかけは2006年、クラゲ由来のコラーゲンを抽出したサプリメントの販売をしていたところ、愛媛大学の教授から「クラゲのコラーゲンが土壌に良い影響を与えるのではないか」という提案を受けたことでした。当初は食品素材を土に撒くことに抵抗がありましたが、実験の結果、クラゲ由来のコラーゲンが土壌の水分保持力を高め、木の成長を促進することが証明され商品化に至りました。
森林を豊かにすることは、一見、水産事業とは関係が薄いように思われるかもしれません。しかし、実はかつお節の製造工程では、燻製の工程で大量の薪を使用しています。弊社のかつお節製造量と薪に使用される広葉樹の伐採量はほぼ同じで、年間約3,000トンの広葉樹を伐採している計算になります。そのため、「森を豊かにすることが、最終的に海を豊かにする」という循環型の考え方のもと、『くらげチップ®』を活用した森林保全や再生に取り組んでいます。これまでに乾燥地帯や山火事で失われた森林の緑化に活用され、現在はモンゴルのゴビ砂漠や東南アジアの山火事跡地で実験が進められています。

さらなる設備導入で脱炭素を進める
酒井)今後は、屋根の耐荷重の問題から実現できていない他の工場にも、太陽光パネルの設置を進めていきたいと考えています。
次世代太陽電池として注目されている、薄くて軽い『ペロブスカイト太陽電池』が実用化されれば導入するなど、可能な限り太陽光パネルの設置を進めていく方針です。
また、ボイラーなど既存の設備をより高効率な設備に置き換えていくことも重要だと考えています。具体的には、LPG(液化石油ガス)を使ったボイラーの他にも、燃焼時に CO₂を排出しない水素ボイラーなども選択肢として考えています。そのために、情報収集を欠かさず、補助金等も活用しながら進めていく必要があると感じています。
5年後、10年後を見据え、今後も食品加工製造業界のトップランナーとして脱炭素を推進する企業を目指します。
今後脱炭素を考えている方へメッセージ
酒井)脱炭素に取り組む上で、具体的な数値目標を設定することが非常に重要だと思っています。弊社も、明確な数値目標を立てたことで実際に変化が生まれました。目標が明確になることで、どのような施策を取るべきかが見えてきて、より効果的な取組みができるようになると思います。
福本)脱炭素に取り組む上で最も大事なのは、まず一歩を踏み出すことだと思います。
その一歩を踏み出すことで、見える景色が大きく変わります。それは企業にとっても、社員一人ひとりにとっても大きな力になります。まずは一歩踏み出して、しっかりと目標を持って進んでいくことで、組織全体が一丸となって取り組めるようになりますので、皆で一緒に頑張っていきましょう。
