ゼロカーボンに向けて、新聞を通じて環境にも会社にも優しい取組みを目指す
2025年04月24日

愛媛新聞社は、日刊新聞印刷をメインに多様な紙媒体の印刷と発送・輸送を担う印刷センター(伊予市)に太陽光発電パネルを設置し、今後のCO2削減効果に大きな期待が寄せられています。新聞業界における脱炭素への取組みや今後の展望について、総務企画局人事総務部副部長の音田久大氏にお話を伺いました。
株式会社愛媛新聞社
新聞朝刊を軸にインターネットやCATV、ラジオ、書籍など様々な媒体を通して地域に役立つ情報を日夜発信している。
愛媛新聞は、1876年(明治9年)に創刊し、現存する地方紙では全国で7番目に古い歴史を持つ。また、展覧会、音楽会、講演会、スポーツイベントなども開催して県民の暮らしや文化の向上に努め、県内のボランティア団体に助成金を贈る「愛・ウェーブ」事業を実施するなど地域貢献活動も行っているほか、太陽光発電の設置など近年脱炭素事業に向けた取組みも精力的に進めている。
【事業内容】日刊新聞の発行、ウェブサイトの運営、各種事業の開催、各種出版物の刊行
【代表取締役社長】加藤 令史 氏
【本社住所】〒790-8511 愛媛県松山市大手町1丁目12-1
【電話番号】089-935-2111
【FAX番号】089-941-8108
【企業HP】 https://www.ehime-np.co.jp/

脱炭素を始めるきっかけ
弊社が脱炭素への取組みを始めたきっかけは、高騰する電気料金の削減とCO2排出量の削減が必要となったからです。
この課題に対応することで、弊社の社是「社業を通じて地域の課題解決や発展に貢献する」という理念を実現し、印刷現場から環境負荷の低減を図れると考えました。3年程前から太陽光発電の導入を検討していましたが、当時はパネルの価格が高く、減価償却に時間がかかるため見送ってきた経緯があります。
しかし、近年の電気料金の高騰を受け、電力会社のデータを基に電力使用量を改めて分析し、費用対効果を再計算。
その結果、太陽光パネルの価格低下によるコストメリットの向上も確認できたため、導入を再検討し、脱炭素への取組みを本格的に進めることにしました。

エネルギー事業への一歩
太陽光発電の導入
2024年、愛媛県の「脱炭素型ビジネススタイル転換促進事業費補助金」を活用し、伊予市の印刷センターに太陽光発電パネル473枚を設置しました。
当初は屋上への設置を計画しましたが、建物に免震構造を採用していることによる耐荷重の問題やスペースの制約から断念。しかし、工場立地法で太陽光発電施設は環境施設として認められており、緑地帯の約7割〜8割の範囲に設置できることが分かったため、緑地帯を活用する形での導入が実現しました。
これにより、昼間に使用する電力を自家発電できるようになるため、2026年には年間の電力使用量を約16%削減、CO2排出量を約172トン削減できる見込みです。

また、本社(松山市)及び印刷センターに順次LED照明も導入しました。2016年には、夜間の照明使用時間が長い本社の紙面製作フロア(4階、5階、6階)を先行してLED照明に更新。2023年には本館・別館の全ての照明をLED化しました。さらに、2024年には愛媛県の補助金を活用し、印刷センターへの太陽光パネルの設置と同時にLED照明工事も実施しました。
この結果、LED照明未導入の2015年に比べて、全拠点での電気使用量は年間35万kWh削減され、CO2排出量も年間157トン減少。愛媛新聞本社に隣接する愛媛新聞・電算ビルの弊社持ち分テナント部分についても、完全LED化に向けた取組みを進めています。
エアコンの適正管理と服装の工夫
エネルギー消費を抑えるため、愛媛県が推奨する室温基準に合わせ、空調の設定温度を夏は28度、冬は20度に統一しています。そのため、夏季にはクールビズ、冬季にはウォームビズを推奨し、温度設定に適した服装を選ぶことで、無駄なエネルギー使用を減らしながら快適で健康的な職場環境を維持しています。
資源を無駄にしない新聞づくり
新聞業界では、大量の紙を使用するため、森林資源の保護と環境負荷の軽減を目的にリサイクル活動を推進しています。弊社も紙やインク、刷版(さっぱん)のリサイクルを積極的に進め、持続可能な新聞づくりを目指しています。
損紙の削減と古紙のリサイクル
新聞印刷の工程では、印刷開始直後などに製品として使用できない「損紙」が発生します。1日あたり200〜300キロ程度出る損紙を100%製紙会社のリサイクルに出し、古紙として再利用しています。近年、さまざまな工夫をして損紙削減に特に力を入れた結果、2024年の年間損紙量は2018年の約3分の1にまで削減されました。
また、新聞用紙自体にリサイクルした古紙を配合した再生紙を使用して新聞を発行しています。約25年前の再生紙は古紙配合率が50~60%でしたが、現在では配合率80%の再生紙を使用しています。これからも資源の有効活用に努め、環境に配慮した新聞づくりを進めていきます。
環境に優しいインキに変更
新聞印刷には、環境や人体に優しいエコマーク付きの「アロマフリーインキ」も使用しています。また、2017年4月からは顔料濃度を高めた「高濃度カラーインキ」を導入。インキの顔料成分を増やすことで色の濃度を高め、従来と同等の濃度の再現をより少ないインキ量で実現できるようになりました。これにより、従来のインキに比べて約12%のインキ使用量削減に成功。
今後も、さらなる削減を目指し、より環境負荷の少ない印刷技術の導入を進めていきます。

刷版のクローズドリサイクル
新聞印刷で使用される輪転機では、「刷版」と呼ばれる厚さ0.3mmのアルミ製の版を使用します。刷版に紙面データを高出力の光源で焼き付け、輪転機に装着して印刷を行いますが、印刷が終了すると一度の使用で刷版は役目を終えます。しかし、刷版はアルミ純度が高くリサイクルが可能なため、廃品回収業者と提携し、使用済みの刷版を廃棄せずに販売業者が回収・再利用する「クローズドリサイクル」を実施。これにより、年間約292トンのCO2排出量削減を実現しました。
これらの廃棄物削減の取組みは、資源の無駄をなくすだけでなく、経費の削減にも繋がります。環境への配慮と経済的なメリットを両立させながら、ゼロカーボンを目指す取組みを今後も継続し、持続可能な新聞づくりを追求していきたいと思っています。


新聞を通じた環境活動への挑戦
弊社では、新聞を読んでいただくだけでなく、その後の活用にも目を向けた取組みを行っています。
例えば、2016年の創刊140周年記念事業として実施した「新聞活用コンクール」では、暮らしや娯楽に役立つ新聞紙の活用を募集しました。古新聞を使って台所仕事や介護に役立つグッズを作る工夫や、病院でリハビリ訓練に活用する事例など、ユニークなアイデアを特集面で紹介しました。
2020年には、古新聞を再利用したバッグ作成を取材し、作り方を公式YouTubeで公開。現在も視聴可能で、今も多くの人に活用されています。こうした取組みを通じて、読者に新聞をより身近に感じていただくとともに、資源の再利用による温室効果ガス削減の重要性を発信しています。
さらに、毎年夏休みには小学生と保護者を対象に「夏休み親子環境教室」を開催し、環境保全の大切さを学ぶ機会を提供しています。2024年は、海洋汚染の原因となるプラスチックごみや、温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルをテーマに、親子で環境問題への理解を深めてもらいました。

今後の課題とさらなる脱炭素への取組み
今後の課題として、CO2削減のさらなる推進とスコープ(温室効果ガス排出の区分)への対応が挙げられます。大手企業ではすでにスコープ3※までの計測を進めており、弊社もこれに対応する必要があると思っています。現在、スコープ1※については、経済産業省へ提出するエネルギー報告書を基にエネルギー使用状況を明示していますが、今後はスコープ2・3※に関しても取引先からのデータ提供の要請が進んでいくと考えられます。現時点では、スコープ2・3の情報提供要請はありませんが、今後は必要に応じて順次対応していく予定です。
また、太陽光パネルが設置できない本社では、南側のガラス張り部分に、フィルム状の極薄型太陽光パネルの導入を検討しています。この技術はまだ試験段階ですが、正式に商品化されれば、導入の検討を進めたいと考えています。
さらに、今後の課題として蓄電池の導入も視野に入れています。新聞社では、夜間に朝刊を印刷するため、深夜から早朝にかけて電力を多く使用します。土曜、日曜日の昼間は印刷センターの稼働が少なく、自家消費用の太陽光発電電力を持て余している状況となります。蓄電池を導入することで、夜間の印刷作業時など発電が行われない時間帯にも電力を活用できるようになり、より効率的なエネルギー運用が可能になります。
これらの取組みを通じて、さらなる脱炭素化とエネルギーの有効活用を推進し、持続可能な運営体制の構築を目指していきます。
※
スコープ1:企業や組織が事業活動によって直接排出する温室効果ガス(GHG)のこと
スコープ2:他社から供給された電気・熱の利用など企業や組織が間接的に排出する温室効果ガス(GHG)のこと
スコープ3:スコープ1、スコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
脱炭素事業を考えている方へメッセージ
脱炭素を始めるにあたり、日頃から電気の使用量などデータを可視化することが重要だと思います。
弊社の場合、電力会社のコンテンツを活用し、各拠点の電気使用状況をまとめています。また、中央監視装置を導入しており、専用のソフトで電気使用量をリアルタイムで確認できるようにしています。データが見える化されることで、必要な設備や改善すべき課題が明確になり、取り組みやすくなります。
また、目標設定も重要なポイントです。設備投資に対するコスト削減を優先するのか、具体的なCO2排出量の削減を目指すのかによって必要な設備や投資額も大きく変わります。自社の状況に合った目標を設定し、無理なく持続可能な取組みを進めていきましょう。
