社員のアイデアから大ヒット商品を生んだ脱炭素事業への取組み
2024年10月22日
愛媛県今治市で、タオルをはじめ繊維製品の染色加工を手掛ける西染工株式会社は、『THE MAGIC HOUR』のオリジナル商品として、製造過程で排出されるタオルの埃を再利用した着火剤「今治のホコリ」でグッドデザイン賞を受賞するなど高く評価されています。
環境に優しい企業を目指し、創業当初から脱炭素事業に取り組む代表取締役の山本敏明氏にお話を伺いました。
西染工株式会社
愛媛県今治市で、タオルをはじめ繊維製品全てを染色加工。染色加工以外にも一貫生産体制で自社製品も多数手掛ける。「環境にやさしい企業を目指して」を社員一同が考え地球環境問題に取組み、オーガニック国際認証(OCS)を取得。2022年(令和4年)にはサスティナブルなアウトドアブランドとして『THE MAGIC HOUR』を展開。サスティナブルの観点からも注目を集めている。
【事業内容】染色加工・繊維製品企画製造販売
【代表取締役】山本 敏明 氏
【本社住所】〒794-0027 愛媛県今治市南大門町4丁目5-1
【電話番号】0898-22-2588
【FAX番号】0898-23-8478
【企業HP】https://nishisenkoh.com/
オイルショックから見えた省エネ意識
創業当初、先代の時代から省エネの意識がありました。
省エネの意識を持つきっかけは、先代が1970年代に二度オイルショックを経験したことです。染色工場は、エネルギー資源を大量に消費する産業です。そのため、オイルショックによって工場は大きく影響を受け、先代は大変苦労したようです。
この経験から省エネへの意識が強くなり、私も若い頃から先代からの申し送り事項として言い伝えられてきました。潜在的に小さなことから省エネに取組み続けてきたことが、結果的に脱炭素に繋がっていったという感じです。
脱炭素への取組みがサスティナブル商品誕生のきっかけに
工場内の脱炭素化
各部署の蒸気漏れ防止やお湯の節約、乾燥機から出る排熱を暖房に使用するなど、小さなことから工夫して取り組んできていました。
大きなきっかけとなったのは、2005年(平成17年)に工場内で使用する重油ボイラーを100%天然ガスボイラーに転換したことです。天然ガスボイラーは、燃焼効率が高いため、重油ボイラーに比べて省エネルギー性に優れています。これによりCO2排出量を38%削減することができました。
また、コロナウイルスの影響を受け仕事量が減少したことを逆手にとって、ピークカット(1日の中で最も電気使用量の多い時間帯に使用する電力を減らして電力需要の平準化を促し、電気料金の削減を目指す取組み)を始めました。昔は生産量が多かったので機械を常に稼働させていましたが、操業率が減少した分、1日に一気に負荷をかけて稼働していた部分を分散。稼働を均等にすることでピークを抑えました。電力を監視するデマンド監視装置を導入し、電力使用が770キロワットを超えると警報が鳴り、どこかの機械を止めるといった仕組みで見える化しながら取り組んでいます。
このことにより、電気とボイラーの消費を抑えることができ、低燃焼で稼働し続けられるようになりました。経費削減にも繋がり、コロナ禍も経営が成り立ったと感じています。
さらに、工場内のLED化も進めました。事務所など主によく稼働する部分をLED化し、効果が表れています。現在、倉庫なども含め工場内のLED化は、100%になりました。
脱炭素事業において、弊社はコンサルタント会社などを利用せず、日頃から補助金の情報を集めておき、事業が補助対象になるタイミングをきっかけに取り組むようにしています。ボイラーやLEDに関しても補助金を利用しました。
サスティナブル製品の誕生
社内での一貫生産体制を始めたことで、社員に「世の中にない、自分の欲しいものを作り出して欲しい」と伝えました。このことが、生産過程のエネルギー削減率を意識するなど、地球環境を考えたサスティナブル商品のみを手掛けるオリジナルアウトドアブランド「THE MAGIC HOUR」立ち上げのきっかけになりました。
弊社には開発のみを担当するいわゆる「開発チーム」は存在しません。作ることだけを考えていても良いアイデアは生まれないと思うからです。社員は各々自分の仕事をしている中で「こんなものがあったらいいな」を実現化しています。会社が省エネに取り組んできたからこそ、社員からは自然とサスティナブルな商品アイデアが出てくるようになり、数商品まとまった時点でブランドとして立ち上げることになりました。特に、製造時に大量に出るタオルの埃を、サスティナブルの観点から着火剤に再利用した「今治のホコリ」は弊社の社員の傑作です。
職場環境の課題が脱炭素事業によって改善
脱炭素によって解消された課題と脱炭素の広がり
重油ボイラーを使用していた時代は近隣の住民とのトラブルに悩んでいました。着火のたびに煙が出ていましたし、煤煙装置では防ぎきれなかった煤煙が車や洗濯物の上に落ちて汚してしまうなどの問題が多々あったからです。近隣家屋の瓦屋根に煤煙が落ちて汚してしまったり、火事を心配した近隣住民が消防車を呼んでくれたりといったご迷惑をかけることがあり、精神的にも苦しかったです。
そういったことが天然ガスボイラーに転換したことで解消されましたし、脱炭素の活動を通じてメディアなどの露出も増えたことで、近隣の住民の方々にも認めていただけた感覚があります。会社として大きな悩みが解消されたことが、モノ作りのアイデアに繋がっていると思います。
また、同業他社にも取組みが広がった感覚があります。弊社は、省エネのための機器を導入するのが早かったため、周りの同業他社が2~3年様子を観察されたのでしょうか、少し遅れて導入していくという流れができました。
特に、重油ボイラーを天然ガスボイラーに転換した際は、弊社の導入から6~7年後に周りのほとんどの同業他社も同じように取組みむようになっていました。脱炭素に向けた取組みが、弊社だけでなく周りの事業者にも広がっていくことは嬉しいですね。
働きやすい環境へと規定を見直し
以前は、特定の社員が休むと機械が止まるので有給休暇を取りにくい、というようなことがありましたが、取組みによって社内の体制も変わっていき、3年程前からは社員が有給をより積極的に取得できるようになりました。2年程前には半日有給も取得できるように規定を見直し、学校や地域の行事にも参加できる環境が整い、私の想像以上に社員みんな活用しているようです。
今後のエネルギーシェアへの展望
弊社のみでできる活動ではないですが、他社で余っているエネルギーを別のところで再利用するエネルギーシェアのようなことができたらいいと思っています。
例えば、火力発電所や石油会社などでは、エネルギーを燃やし高温・高圧の蒸気を発生させますが、そのエネルギーのうち余剰分は、高温のまま排出することができないため、大量の水を使用して冷却しています。余剰エネルギーを弊社のような工場にシェアすることができれば、冷却する必要がなく高熱のまま再利用できますし、発電所や石油会社にとっても省エネになり、経費の削減ができます。さらに環境の負荷も減るので、今後、地域をあげて実現できるようになればいいなと考えています。
今後脱炭素事業を考えている方へメッセージ
脱炭素事業は、目先のことだけでなく、長期スパンで考えることが大切だと思います。弊社は創業時からの省エネ意識が結果として脱炭素事業に繋がっていきましたが、それぞれの企業が自社で取り組める脱炭素は何かを考え、10年先、20年先の未来に向けて取組みを実行していく必要があるのではないでしょうか。
脱炭素の取組みには費用がかかりますが、さまざまな補助金を活用しながら、社会全体で協力して脱炭素化に向けて進んでいけたらいいなと思います。