企業を楽しく巻き込む仕組みで地域の脱炭素経営を支援する 『今治モデル』の地域ぐるみ事業

シミュレーション型のカードゲームと説明パネル

今治市と東京海上日動火災保険株式会社(以下、東京海上日動)は、2024年(令和6年)度から環境省の『地域ぐるみでの脱炭素経営支援体制構築モデル事業』に採択され、地域企業が始める脱炭素経営のサポートを行っています。
行政と民間企業のタッグで取り組む脱炭素経営支援について、今治市環境政策課の住吉淳氏と東京海上日動の津村侑子氏にお話を伺いました。

今治市・東京海上日動火災保険株式会社

■今治市

愛媛県北東部・瀬戸内海中央部に位置。海事産業(海運業・造船業・舶用工業)が集積する日本最大の海事都市。2023年(令和5年)には『今治市ゼロカーボンシティ宣言』、2024年(令和6年)には『今治市SDGs宣言』を行うなど、持続可能なまちづくりに精力的に取り組んでいる。
【住所】今治市別宮町一丁目4番地1
【電話番号】0898-32-5200(代表)
【FAX番号】0898-32-5211(代表)
【HP】 https://www.city.imabari.ehime.jp/

■東京海上日動火災保険株式会社

東京海上グループの中核企業である東京海上日動火災保険株式会社は、1879年(明治12年)に創業。 国内にとどまらず世界規模で損害保険事業を展開している。また、サステナビリティに向けた取組みとして、1999年から始めたマングローブ植林、2009年からは「お客様とともに環境保護活動を行うこと」をコンセプトに「Green Gift」プロジェクトの開始、高知県・協働の森づくり事業、アマモ場保全・再生活動等の環境保護活動『森を守る活動・海を守る活動』を行っている。

【事業概要】損害保険業
【取締役社長】城田 宏明 氏
【住所】東京都千代田区大手町二丁目6番4号
【電話番号】089-903-8171(愛媛支店今治中央支社)
【HP】 https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/

今治市役所の外観と東京海上日動ロゴ画像

東京海上日動からの案内で支援事業がスタート

住吉)環境省の『地域ぐるみでの脱炭素経営支援体制構築モデル事業(以下、地域ぐるみ事業)』は、地域における脱炭素経営促進に向けた仕組みづくりを支援する事業です。2023年(令和5年)度から開始され、全国で16案件が採択されました。

そのうちのいくつかに関っておられた東京海上日動からご紹介をいただいたことが、今治市がチャレンジを決めたきっかけです。 
 
津村)今治市と東京海上日動は、もともと2020年(令和2年)に包括連携協定を締結しており、これまでもさまざまな形で連携を重ねてきました。

そうした中、2023年(令和5年)に今治市がゼロカーボンシティ宣言をされたことを受け、地域ぐるみ事業にも取り組まれてはどうかと考え、ご案内しました。 

津村侑子さんの写真
東京海上日動 津村侑子さん

地域ぐるみ事業『今治モデル』スタートに向けて

住吉)2024年(令和6年)度に採択を受け、今治市で地域ぐるみ事業を開始することになりました。しかし、脱炭素に馴染みのない企業に呼びかけても、消極的な反応が多いという課題がありました。このままこちらが待ちの姿勢でいたのでは参加企業は集まらず、地域企業の脱炭素化は一向に進みません。

そこで、脱炭素経営について「どのようなメリットがあるのか」「補助金をどのように活用できるのか」「どのように進めればよいか」といった情報を、支援する側から能動的に発信し、声がけを行いました。
 
また、今治モデルの特長のひとつが、支援のために構築した「座組」です。今治市と東京海上日動を中心に、地域の金融機関や今治商工会議所も加えた、緩やかな連携体制を構築しました。
これにより、事業関係者たちが同じ方向を向いた状態を生み出し、連携しながら事業を円滑に進めることができました。
 

住吉淳さんの写真
今治市環境政策課 住吉淳さん

意識変容から行動変容、サポートまで一貫した脱炭素経営支援プログラム

カードゲームを通して脱炭素を学び、意識を変えることからスタート

住吉)脱炭素は、馴染みのない方にとっては難しく、正直なところ「面倒」と感じられがちです。そこで、まずは脱炭素を体感的に捉えていただくべく、シミュレーション型のカードゲームを実施しました。

仮想の町を舞台に、参加者がその町の住人となって脱炭素アクションを行い、その結果として町がどのように変化するのかをシミュレーションできるという内容です。自分事として体感しながら、楽しく脱炭素を理解できる仕組みになっています。
 
2024年(令和6年)度の参加者を対象に行った事後アンケートでは、回答者22名全員から「楽しく勉強になった」という回答をいただきました。
脱炭素事業を前向きに取り組む入口として有効であることが確認できたため、今年度以降も本プログラムを採用しています。

カードゲームの画像
プログラムで使用したカードゲーム

脱炭素へ向けた行動を学べる『脱炭素経営スクール』

住吉)意識変容を行った後は、東京海上日動が提供する『脱炭素経営スクール』に年4回ご参加いただきます。このスクールは、企業向けの脱炭素経営を体系的に学ぶためのプログラムで、東京海上日動のソリューション「Green経営スクール」を今治市版にアレンジしたものとなります。

プログラムでは、専用のツールを用いて自社の温室効果ガス排出量を算定し、その結果を参加者同士で共有し合い、数値の違いについて意見交換を行うワークショップを実施します。さらに、それをもとに脱炭素経営を進めるために必要な社内体制について話し合ったり、先進的な企業の取組み事例を学んだりしながら、実践的な知識を身につけていきます。 

最後に、今までの学びを踏まえ、各企業が未来に向けて取り組むべきアクションを整理し、ロードマップとしてまとめます。 
 

『脱炭素経営スクール』の様子

行動変容プログラムまで履修後、『バリグリ』として認定

住吉)これらのプログラムをすべて履修された方は、今治市において、地域の脱炭素経営を推進する担い手である『今治グリーンフェロー(通称、バリグリ)』として認定しています。バリグリは認定して終わりではありません。翌年以降も新しい知識を学んでいただきながら、企業や地域における脱炭素の推進役として活躍していただいています。 

これまでバリグリに認定されたのは、1年目(令和6年度)が17社19名、2年目(令和7年度)が12社14名。また、男女比率はほぼ同じという結果となりました。 

参加者の性別や役職を問わなかったこともあり、誰もが意見を出しやすく、闊達なコミュニケーションのもと、プログラムは終始良い雰囲気で進行していたと感じています。

自社の脱炭素化へ向けてさらに取り組みたい方へ、アフターフォローも

住吉)行動変容プログラムまで受講された上で、さらに自社の脱炭素化に専門的に取り組みたい方に向けて、東京海上スマートGXの『脱炭素経営支援サービス(スマートe-ナビ)』という、脱炭素経営を支えるコンシェルジュサービスをご案内しています。そちらの利用料を、今治市が負担しています。

ビジョンロードマップの画像
ビジョンロードマップ

今治モデルが評価され、地域ぐるみ事業に2年連続で採択!2年目には県内で横展開に挑戦

住吉)2024年(令和6年)に今治市で実施した地域ぐるみ事業の成果をもとに、2025年(令和7年)には県内の他自治体への横展開に挑戦しました。

愛媛県を通じて県内全ての市町村にアンケートを実施し、地域ぐるみ事業についてご案内したところ、八幡浜市と内子町が手を挙げてくださいました。現在は、この2市町を対象に事業を実施しています。 
愛媛県と連携し、地域ぐるみ事業に関心を持つ他の市町にも取組みを広げていければと考えています。

地域ぐるみ事業を通して輪が広がることで感じる喜び

津村)脱炭素というひとつのテーマのもとにさまざまな人が集い、その輪が徐々に広がっていく様子を見られた時にやっていてよかったなと感じます。地域ぐるみ事業に参加された方から「いろいろな業種の方と知り合うことができ、脱炭素の政策や活用できる補助金について知ることができた」といったお声をいただき、とても嬉しかったです。
 
住吉)地域企業の皆さんも同じだと思いますが、私自身、今治市の脱炭素分野の実働を担当するなかで、正解が分からないまま進めなければならない孤独感を感じることがありました。
しかし、この地域ぐるみ事業を通して、ひとりではなく、地域全体で脱炭素に向かって進んでいけていると実感しています。

また、本事業の成果を環境省に評価いただき、2年連続で採択されたことで、これまで進んできた道が間違っていなかったと確認できたことも、大変嬉しかったです。

カードゲームとロードマップなどのセット一式

地域ぐるみ事業を進める上で苦労したことと解決策

津村)企業の皆さまに脱炭素事業についてお声がけをすると、「そもそもどこの部門の担当なのか分からない」といった反応や、売上など他に優先すべき課題を理由にお断りをされることがありました。 

そこで、今治市のコンセプトのひとつである「脱炭素事業を進められる人材のエンパワーメント」に着目しました。脱炭素に取り組むことで、よい人材が集まり、採用活動にも良い影響があること、社内人材の能力開発につながることなどをアピールしました。
脱炭素の先にある採用面や専門性向上によるメリットを説明することで、徐々に前向きなお声をいただけるようになり、地域ぐるみ事業のスタートラインに立つことができました。 
 
住吉)津村さんがおっしゃる通り、地域ぐるみ事業に参加いただく企業集めには苦労しましたが、脱炭素事業と企業との「関わりしろ」を作ることができたことは大きな成果だったと思います。 

さらに、入口としてカードゲームを採用したことで、脱炭素への心理的なハードルを下げることができたのではないでしょうか。 
 

今治モデルの今後の展望

津村)2025年(令和7年)度は、内子町と八幡浜市において今治モデルの地域ぐるみ事業を実施しました。県内には、「導入してみたいが、今は難しい」と感じている企業や自治体もまだいらっしゃると思います。
そうした方々が「試してみようかな」と思ってくださるように働きかけを行い、脱炭素化に向けた輪をさらに広げていきたいと考えています。 

脱炭素事業を検討している事業者へメッセージ

住吉)脱炭素事業に取り組もうとしても、何から始めれば良いのか分からず、孤独を感じることもあるかもしれません。そのような時には、すでに取り組んできた立場として、私たちの経験をお話しできますので、ぜひご相談ください。 
 
津村)「ぜひ一緒にやりましょう」とお伝えしたいです。今治市に限らず、こういった記事をご覧になって関心を持たれた方が全国でいらっしゃれば、これまでの経験をもとに何かお役に立てることがあるかもしれませんので、気軽にご相談いただければと思います。 
これから始めようとされている方、ぜひ一緒に第一歩を踏み出しましょう。
 

津村さん(左)と住吉さん(右)の画像