海運の未来を変えるー ゼロエミッション船で切り開く脱炭素社会

グリーン鋼材を採用した船

檜垣造船株式会社は、環境負荷を低減し持続可能な海上輸送を実現するため、運行時に温室効果ガス(GHG)を排出しない『ゼロエミッション船』の開発や 製造過程でのCO2排出量を最小限に抑えた環境負荷の少ない素材『グリーン鋼材』の活用など革新的な取組みを進めています。海運業界の最前線で活躍する脱炭素事業について、工務部施設管理課課長の大西文人氏と経営管理部総務課主任の喜多椋平氏にお話を伺いました。

檜垣造船株式会社

1964年(昭和39年)に設立された檜垣造船は、液化天然ガス(LNG)を運ぶ 『LNG船』、液化石油ガス(LPG)を海上輸送する『LPG船』など、多種多様な船舶を設計・建造。特に中小型輸送船に強みを持ち、近年では環境に配慮した船舶の開発に積極的に取り組む。国内初の内航貨物LNG燃料船の建造や、省エネ船型『HI-MAX-WIDE-ECO』の開発・建造により、持続可能な未来に向けた船舶技術の革新を進めている。

【事業内容】各種船舶の設計開発・建造・修理
【取締役社長】檜垣 宏彰 氏
【本社住所】〒799-2111 愛媛県今治市小浦町1丁目4番25号
【電話番号】0898-41-9147
【FAX番号】0898-41-7322
【企業HP】 https://www.higaki.co.jp/

省エネ課題をきっかけに本格化した脱炭素への取組み

大西)弊社の工場では、従来のコンプレッサーや照明設備の老朽化により、エネルギー効率の低下や運用コストの増大が課題となっていました。特に、電力消費の多い設備がCO2排出量の増加を招き、省エネ対策が急務となっていました。こうした背景から、社内で省エネ意識が高まり、より効率的なエネルギー使用の重要性が再認識されていました。さらに、環境規制の強化や取引先からの環境対策の要求の高まりを受け、脱炭素の取組みを本格的に開始しました。

画像:工務部施設管理課 課長 大西文人さん
工務部施設管理課 課長 大西文人さん

エネルギー効率の向上に向けた設備導入で持続可能なエネルギー活用へ

大西)弊社では、電力消費の削減と省エネの推進を目的に、コンプレッサーの更新、LED照明の導入、太陽光発電の拡充を進めています。これらの取組みを通じて、持続可能な生産体制の確立を目指しています。

コンプレッサーの入れ替えで省エネと作業効率を向上

大西)本社工場では、省エネ対策の一環として、コンプレッサーの更新を行いました。従来のコンプレッサーは電力消費が大きく、本社工場全体の電力使用量の約30%を占めており、運用コストの増大が課題となっていました。

そこで、電力会社と連携し、現在の電力使用量と設備導入後の電力消費を計測。省電力で稼働するインバーター式コンプレッサーの導入が有効であると判断し、2024年に愛媛県の『脱炭素型ビジネススタイル転換促進事業費補助金』を活用して設備を更新しました。

以前使用していた2台のコンプレッサーは、エアー供給が不要な場合でも待機電力として3.5kWを消費し、年間で170,520kWhの電力を使用していましたが、新しいコンプレッサーの導入により、年間の電力消費は115,080kWhに削減され、約32.5%の電力使用量削減が見込まれています。 

さらに、これまで1階と3階に分かれて設置されていたコンプレッサーを更新時に1階に集約したことで、作業効率の向上にも繋がりました。

画像:本社工場に設置されたコンプレッサー
本社工場に設置されたコンプレッサー

LED照明の導入で大幅な省エネ効果を実現

大西)社内の電球のLED化も進めています。本社ビルは既に100%LED照明への切り替えを完了しており、波方工場でも、愛媛県の補助金を活用し、工場内の照明を100%LED化しました。これにより、導入前に比べて電力消費を82.8%削減することに成功し、大幅な省エネ効果が得られています。

画像:波方工場内のLED照:
波方工場内のLED照明

太陽光パネルの充実でさらなる電力削減を目指す

喜多)弊社では約10年前から工場の屋上に太陽光パネルを設置し、経費削減と省エネの推進を図ってきました。これは、脱炭素への本格的な取組みを始める前から実施していた施策の一つです。

工場の規模が大きいため、電力使用量の約10%のみを自家発電で賄えている状況ですが、さらなる効率化を目指し、屋上に設置する太陽光パネルの規模を現在の2倍に拡大することを検討しています。将来的には、電力使用量の約30%削減を目標としています。

これらの取組みを通じて、より効率的なエネルギー運用を実現し、環境負荷の低減とコスト削減を両立させています。今後も最新技術を積極的に活用し、持続可能な事業運営を目指していきます。

画像:波方工場上の太陽光パネル
波方工場上の太陽光パネル

初期投資の負担と工場運用との両立

大西)脱炭素化を進めるうえで、最初に大きな課題となったのは、初期投資コストの高さでした。コンプレッサーやLED照明の更新には多額の資金が必要であり、投資回収期間を慎重に見極める必要がありました。そこで、愛媛県の補助金を活用するとともに、設備更新を段階的に進めることで予算を分散し、初期投資の負担を抑える工夫をしました。

工場への設備導入にあたっては、稼働している生産ラインを止めることができないため、工場の生産工程と設備導入の両立に苦労しました。作業工程への影響を最小限に抑えるため慎重に日程調整を行い、設備の設置場所も将来的に移動リスクが少ない位置を選定しました。その結果、導入までに計画以上の時間を要しましたが、生産に支障をきたすことなく完了することができました。

脱炭素を支える組織づくり

喜多)脱炭素への取組みを効果的に進めるため、各部署および担当者の役割と責任を明確に分担しました。これにより、業務負担の偏りを防ぎ、プロジェクトを円滑に進める体制を整えました。また、2023年には脱炭素を中心となって進めるエネルギー管理士を増員し、現在は6名体制で脱炭素に向けた取組みを強化しています。

画像:経営管理部総務課 主任 喜多椋平さん
経営管理部総務課 主任 喜多椋平さん

国内初のゼロエミッション船への挑戦

大西)弊社は、ゼロエミッション船として、国内初の内航貨物LNG燃料船の建造に成功し、CO2排出量や硫黄酸化物の大幅削減を実現しました。
ゼロエミッション船とは、運航時に温室効果ガス(GHG)を排出しない船舶を指します。従来の重油燃料と比べて環境負荷の少ないエネルギーとして注目されているLNG燃料(液化天然ガス)を使用することで、CO2排出量を24%削減し、大気汚染物質である硫黄酸化物(SOx)は100%、窒素化合物(NOx)は40〜70%削減することが可能となりました。

このプロジェクトは業界内でも大きな注目を集め、専門メディアや業界誌に取上げられ、2021年には国土交通省が推進する内航船の省エネ性能や省CO2排出性能を評価する「内航船省エネルギー格付け制度」において最高評価の星5を獲得。省エネ性能やCO2削減効果が高く評価されました。

さらに、船主様からの「環境に配慮した鉄板で船を作れないか」という要望を受け、製造過程でのCO2排出量を最小限に抑えた環境負荷の少ない素材『グリーン鋼材』を使用した船舶の建造も推進。持続可能な素材を取入れ、船舶のライフサイクル全体を通じた脱炭素化を実現しました。

また、このプロジェクトの実現に向け、弊社は複数の企業と協業し技術や知見を取入れました。特に、LNG燃料の取扱いにおける安全性や燃料効率の向上については、専門企業の知見を活用し、新たな技術の開発と改良を進めた結果、より高水準なゼロエミッション船の建造が可能となり、持続可能な海運業の発展に貢献しています。
今後も、環境負荷の低減とエネルギー効率の向上を目指し、脱炭素社会の実現に向けた取組みを積極的に推進していきたいと思います。

画像:グリーン鋼材を採用した船
グリーン鋼材を採用した船

デジタル化でゼロエミッションオフィス実現を目指す

喜多)弊社では、廃棄物や温室効果ガスの排出ゼロを目指す「ゼロエミッションオフィス」の実現に向けて、業務のデジタル化を進めています。書類のペーパーレス化を徹底し、業務データをクラウド上で一元管理することで、紙資源の使用を最小限に抑えています。私が入社した頃は、多くの業務が紙ベースで行われていましたが、現在ではシステム化が進み、ほとんどの業務をデジタル上で完結できるようになりました。

また、東京にも営業拠点があり、これまで出張を伴う移動が必要でしたが、オンライン会議の活用により移動を大幅に削減することができました。各階にオンライン会議用の設備を整えたことで、対面での打ち合わせが不要な場面ではリモート対応が可能となり、移動に伴うCO2排出の削減と業務の効率化を両立しています。

さらなるCO2削減と持続可能な製品開発へ

喜多)今後も、CO2排出量の削減と環境負荷の最小化を目指し、次世代型省エネ船舶やゼロエミッション船の開発に挑戦し続けます。特に、環境負荷を抑えた『グリーン鋼材』の活用拡大を進めることで、製造工程全体の脱炭素化を図り、持続可能な製品開発を推進していきたいと思っています。

また、全社的なエネルギー管理体制を強化し、ゼロエミッションの実現に向けた取組みを加速させていく方針です。

今後、脱炭素事業を考えている方へメッセージ

喜多)脱炭素というと、大規模な設備投資や技術革新が必要だと考えがちですが、実は日々の小さな取組みの積み重ねこそが重要だと感じます。

私自身、会社だけでなく個人としても、空き缶をスーパーのリサイクルボックスに持って行ったり、会社にマイボトルを持参し、ウォーターサーバーの紙コップを使わないようにしたりとできる範囲で環境負荷を減らす努力をしています。こうした小さな積み重ねが、やがて大きな変化に繋がります。企業でも個人でも、「できることから始める」ことが未来に繋がる大きな一歩となると思います。

 

大西)脱炭素の取組みを進めるうえで最も重要なのは、情報収集と事前準備だと考えます。

自治体が提供する補助金制度を効果的に活用するためには、日頃から最新の情報を収集し、制度が発表された際に迅速に対応できる準備を整えておくことが不可欠です。弊社では、数年前からこの準備を進めていたため、スムーズに愛媛県の補助金を活用することができました。
脱炭素化は短期間で達成できるものではありません。しかし、小さな取組みを積み重ねることで、やがて大きな成果へと繋がります。これからの脱炭素社会に向けて、共に行動を起こしていきましょう。

写真:左=大西さん、右=喜多さん