「人にも環境にもやさしい」をコンセプトに クリーンエネルギーを活用した環境対応型ホテルを運営
2024年12月25日

愛媛県松山市にある株式会社古湧園は、地球環境に配慮し、クリーンなエネルギーを使用した環境対応型ホテルの運営をいち早く行ってきました。脱炭素事業に力を入れ、「令和4年度愛媛ふるさと環境大賞」や、「えひめSDGsアワード2023」を受賞しています。代表取締役である新山 富左衛門氏にお話を伺いました。
株式会社古湧園(ホテル古湧園 遥)
本社を愛媛県松山市に構え、愛媛県初の環境対応型ホテル「ホテル古湧園 遥」をはじめ、道後地区を中心に展開している物販事業や飲食店、セレクトショップ等の運営を行う。「再エネ100宣言RE Action」に参加し、2050年を目処に、事業活動に伴う電力を段階的に100%再生可能エネルギー由来に転換することを目標に掲げ、循環型社会の実現に取り組んでいる。
【事業内容】宿泊業、土産物産品小売業、通信販売、食堂の委託運営
【代表取締役】新山 富左衛門 氏
【本社住所】〒790-0836 愛媛県松山市道後鷺谷町1の1
【電話番号】089-945-5911
【FAX】089-932-3011
【企業HP】https://www.kowakuen.com/

建て替えが転換点に、独自性を持つホテル運営の挑戦
2019年10月に当ホテルを開業しました。以前は12000平米以上のホテルを運営していましたが、耐震促進法の関係もあり、脆弱な部分が判明し建て替えを2016年に決定しました。当時、SDGsなど環境問題が非常にクローズアップされていましたので、そのような状況下でいかに環境問題に取り組むべきかを考えていました。
当時の宿泊業界では、高級志向で豊富な資本を持った外資系企業も参入していました。そのような競争を生き抜く中で「環境に特化した建物を作っていこう」と考えました。また、これをお客様にアピールし、ご理解を頂いたうえで集客を行うことにしました。結果として、現在では国内だけでなく海外のお客様もネット上で会社の取り組みをみて、当ホテルを選択いただいている方々もいらっしゃいます。

時代に応じ切り拓く、環境にも経営にも配慮した古湧園の取り組み
環境に優しい建物設計ZEB
当時、経済産業省がZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)の実証事業を開始しており、私たちも挑戦することを決めました。その中でも、ZEB Readyというカテゴリーでの営業をスタートさせました。ZEB Readyとは基準1次エネルギー消費量から50%以上の削減を行うものです。例えば、設備で窓を二重ガラスにしたり、建物を断熱性の高いものにしたりするものです。
また、ZEBでは石油やガスを使用せず、電気のみでの運用を行っています。監視装置を設置して、平均エネルギー使用量と過去の使用量と比較したデータを毎月経済産業省に報告しており、データからZEBの定義の範疇に入っていると判断しています。このことから、脱炭素へ貢献ができていると実感しています。
ZEBホテルに大きく貢献したサポート
国の補助金を活かし、なんとかZEB対応のホテルを立ち上げることができました。当時は、建築会社や設備会社にとっても初めての工事で、愛媛県内はもちろん、四国でも新築の大型ホテルとしては初めての取組みでした。設計の際には、環境技術やエネルギー効率の向上を推進するための支援や普及を行う団体「一般社団法人環境共創イニシアチブ」の指導を受け今回のZEBに取り組みました。環境省や経済産業省を通して、全国のコンサルティング会社を紹介していただけます。市や県のZEBやZEHなどの担当窓口もアドバイスいただきました。
環境対策はコストが大きくなることもあり、設備更新や見直しを必要とする時がチャンスだと思います。やはり補助金があると、いろいろな決断をする際に大きく影響します。
環境にも経営にも優しいZEBホテル
一般社団法人日本旅館協会によると、15年前の一人当たりの宿泊にかかる光熱水費はおよそ1300円程度と言われていました。現在は、光熱水費の高騰もあり一人当たり約1800円程度でないかと推計しますが、その中で弊社は、エネルギー使用に関する監視装置のデータによると約900円程度まで抑えることができています。ランニングコストの削減に加え、エネルギー使用量を削減することで、温室効果ガスの削減にもつながっていますね。

コロナ禍後に、四国初の取組みとしてホテル壁面の斜面地に太陽光パネルを設置しました。全体として60kw程度の規模を設置しています。この取組みによって、年間200万円程度コストを削減できていることがわかっています。結果として本年度(2024年度)は、全体エネルギー使用量の15%を再生可能エネルギー由来の電力で賄うことができています。
防災対策にもなっている太陽光設備
屋上に太陽熱集熱器を設置して、湯を沸かすシステムを導入しました。ZEBの中心技術となっています。それだけではなく紙ストローの使用や、プラスチックパウチの使用削減など細かな点での取組みも行っています。


また、南海トラフ地震をはじめとした様々な災害が発生することも予想されているため、災害時に送電網が寸断された際にも、自己対応できることが必要だと考えています。太陽光発電機にバッテリーを併設しており、充電スタンドも用意しています。緊急時には地域の方々に開放し、自由に充電してもらうことが可能です。
このような取組みは個人でも行うことができ、脱炭素にもつながっています。災害対応にも役立つので、是非皆さんにもやっていただきたいと思っています。

脱炭素化で広がる企業の輪
弊社の脱炭素に関する取組みは高く評価されており、気候変動対策や地球温暖化防止に貢献する優れた取組みとして環境省と全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)が主催する「令和4年度気候変動アクション大賞」を受賞することができました。その結果、全国から視察の方々もこられています。反響も大きく、弊社の取組みに対して多くの方々から評価をいただいています。
また、「再エネ100宣言 RE Action協議会」という団体に加盟させていただきました。この団体は、2050年までに再生可能エネルギーのみの使用で運営することを宣言、それに向けた活動に取り組んでいる企業が加盟している団体です。現在は400社程の企業が加盟しています。脱炭素の取組みを始めた頃は、周囲からは不思議なことをやっている程度の反応でしたが、現在はホテル業界の方々からも「先見の明があったね」というような反応をいただいてます。

2050年までに再生可能エネルギーのみでの運営が目標
周囲環境や条件などバランスを考慮
ZEBは建てたら終わりではなく、次のステップがあります。私たちの会社では2050年までに、再生可能エネルギーのみの使用による運営を目標としています。
環境というものは、ただその場所である“点”のみを考えるのではなく“面”、さらには“地域全体”で考える必要があります。周囲の環境を考えず闇雲に太陽光発電を設置するのではなく、バランスを考えて脱炭素に取り組まねばと思っています。車の充電スタンドも設置していますが、まだまだ利用者が少なく月に3,4回程度なのが現状です。しかし、今後10年程度で利用数も増加していくことが考えられるので、それに合わせて設置数も増加させたいと考えています。
電力会社任せではなく、脱炭素にむけて一人一人ができることを
今後は環境に良い取組みがより進むと思っています。文化が発達するにつれて「本当の贅沢とはなんだろう?」という考えのもと、ただ豪華なものではなく環境に配慮したものの選択も増えていくと考えています。現在、日本全体の電力は、再生可能エネルギーではなく火力発電で需要の多くを賄っていることが現状です。
実際問題、生きていくうえで電気は必要不可欠です。製造業のロボットや、医療現場でも電気を必要としています。だからこそ、脱炭素の取組みを進めていく必要があります。火力発電も再生可能エネルギーも全て電力会社まかせではなく、個人・企業単位でできることはたくさんあります。未来への構想、楽しみに取り組んでいきたいと思います。
