従来の印刷業を環境視点から見直し、デジタル化の潮流を捉えた新しいサービスは「えひめSDGsアワード2022」で優秀賞を受賞
2025年01月10日

約20年前から環境マネジメントシステムに関する国際規格ISO14001を取得するなど、環境に配慮した取組みを行ってきた佐川印刷株式会社。社用車へのEV導入や太陽光発電の設置など、CO2排出量の削減に努めています。また、印刷に用いられるインキをnon-VOCインキやベジタブルオイルインキに変えることで、環境への配慮も進めています。
2000年より現職である代表取締役社長 佐川正純氏、約20年社内の移り変わりを見てきた経営管理部次長 加納飛鳥氏、そして印刷業務に関わる松山製造部部長 川上貴紀氏にお話を伺いました。
佐川印刷株式会社
愛媛県松山市に位置し、従来の印刷業だけでなく、デジタル化の潮流を捉えたWEB関連事業、空撮動画事業やサイン&ディスプレイ事業など新しいサービスを提供。凸凹を生み出す特殊なプリント加工「2.5Dリアルプリンティング」を活用し、視覚障がい者を含むあらゆる人々が触れて楽しむことができる美術展示物を愛媛県美術館と共同開発したことで、「えひめSDGsアワード2022」で優秀賞を受賞。
【事業内容】印刷事業、屋外広告事業、広告事業、WEBデジタル関連、企画提案
【代表取締役】佐川 正純 氏
【本社住所】愛媛県松山市問屋町6番21号
【電話番号】089-925-7471
【FAX】089-925-7464
【企業HP】https://www.sakawa.co.jp

ISO14001を取得。地域のパートナーという思いが脱炭素事業のきっかけに
経営管理部次長 加納)当社が脱炭素事業に乗り出したのは、環境保護への強い思いと次世代への責任感からです。2003年に環境マネジメントシステムISO14001の認証を取得。持続可能な経営を推進する中で、環境保護の重要性を再確認しました。地域のパートナーとしてCSR(企業の社会的責任)活動を行い、環境問題への意識を高めることで、地域社会との連携がとれていったと思います。
また、CTP(Computer to Plate:印刷用の版を作成する方法)技術の導入により、従来の製版工程で発生したフィルムや定着液、現像液の廃棄物を大幅に削減したことで、環境負荷を低減するとともに、製版工程の効率化と品質向上につながりました。
さらに、当社代表の佐川(さかわ)の熱意と社員一人ひとりの積極的な長年の活動が原動力となり、企業全体での環境意識が向上しました。佐川は、“企業活動は環境に優しいものであること”に重きを置き、「自己適合宣言※」を行うなど、企業活動を徹底しています。
※組織・企業が自身で規格への適合性を評価し、適切であれば、組織・企業自らの責任において規格への運用およびその適合を宣言するもの(参照:https://www.acap.or.jp/activity/iso10002/i009/)

社内 SDGs 推進プロジェクト「STEP2030」の取組みは日々深化
環境保護印刷特化への理解を促す
加納)環境問題に取り組むため、まず、社内で「STEP2030」というSDGsを推進する組織を立ち上げました。「社員が同じレベルでSDGsの知識を持ち自分の業務と結びつけて考えること」を目標に、新入社員から2~3年の若手社員が中心となって、SDGsの達成に向けた具体的な行動を促進しています。
2023年度は、当社が認証されている環境マークを一覧化し、周知活動に努めてきました。社員一人ひとりが理解を深めることで、お客さまに自信を持って勧めることができます。また、環境に配慮した印刷物だからと、当社に依頼される企業様も増加。特に環境マークを付与した印刷物は環境に配慮していると証明でき、ブランド力アップにも貢献できているのではと考えています。
「STEP2030」の取組みは、若手社員の成長とともに会社全体の環境保護意識も高まり、生産性向上にも好影響を及ぼしています。


一人ひとりができることからみんなで活動、大きなパワーに
加納)その他の取組みとして、電気自動車の導入も進んでいます。社用車選定の条件にエコカーであることを加え、年間で約20%のCO2削減を達成しています。また、グリーンカーテンを設置することで、夏季のエアコン使用量を削減しエネルギーコストの低減にもつながりました。
さらに、毎年ゴーヤがなるので、社員みんな収穫を待っているほどです(笑)。一人ひとりの「eco活!」は会社にとって大きなパワーとなっています。

代表取締役 佐川)私自身、山や川や海が美しい田舎育ち。自然に対しての感謝の気持ちを持っています。これから先も生きやすい地球を残していくため、一人の力では世の中を大きく変えることはできなくとも、何かをせずにはいられませんでした。
そんな中、ISOなどの環境認証を取得しました。ですが、企業活動を行っていると、取得するだけでは環境に優しいわけではないと気付かされるんです。製品を作る際には必要最小限のエネルギーで済むように努め、さらに、生み出す製品が環境に負荷をかけないだけでなく、環境保全に貢献できるものとなるよう意識しています。
印刷工程では、社員の健康に害のない化学薬品を使用しています。しかし、その結果、インキの乾きが悪くなることがあるので、環境負荷を抑えつつ、生産性の低下を招かないよう課題解決に取り組んでいます。

地域経済への貢献と環境保全の両立を目指して
製造部部長 川上)省エネという視点では、従来の印刷工程を版下ではなくDTPデータ、フィルム出力ではなくケミカルレスCTPプレートへ替えて使用しています。これは、アルカリ現像液による現像工程をなくした刷版のことで、現像機処理をなくし、処理機の運転により排出されるCO2を削減することができます。
また、有害な薬品を使用しないノンアルコール印刷や、環境にやさしいnon-VOCインキやベジタブルインキ、印刷時に必要な湿し水(しめしみず)を再生する破棄不要型湿し水ろ過装置、環境負荷の少ない洗浄剤を使用することで、空気と水を汚さない環境保護印刷を行っています。

これらの取組みは、「クリオネマークゴールドプラス(GOLD+)」(環境保護印刷推進協議会(E3PA)が定める環境保護印刷マークの認証ステータス)認証の取得条件でもあります。当社が地球環境保全と印刷生産性向上・品質向上の両立を図り、持続可能な印刷業の発展を推進していると顧客に伝えることができるんです。
松山第一工場は、2016年に愛媛県では初となるオフセット印刷部門のグリーンプリンティング工場として認定されました。
2024年度は、さらなるCO2削減に向けて、愛媛県の「脱炭素型ビジネススタイル転換促進事業費補助金」を活用し、12月に松山工場に太陽光発電設備を設置しました。同時に、既存の設備も省エネルギータイプに入れ替え、太陽光発電による創エネルギーと合わせて約35%のCO2が削減されます。
製品を通じてお客様のSDGsの取組支援や目標達成にも貢献できると考えています。

環境負荷に配慮しつつ、新しいサービスを創出「2.5Dリアルプリンティング」
加納)インターネットの普及やデジタル化などにより印刷物が減少する中でも、印刷技術は進化しています。そのひとつが当社オリジナルの技術「2.5Dリアルプリンティング」です。この技法の活動が認められ、「えひめSDGsアワード2022」優秀賞を受賞しています。
凸凹を生み出す特殊なプリント加工で、視覚障がい者を含むあらゆる人々が手に取って感じられる技法です。例えば、魚や海の生き物を印刷する場合、本物のようなこだわった質感を体験できます。
印刷方法は全てデジタル。パソコンから直接印刷機にデータを送って刷るので、環境資材や環境負担も少ないのが特長です。時代に合わせて変わっていくもの、探求して残していくもの、2.5Dリアルプリンティングがこれからどう進化するのか、私たちの会社の未来を担っていると言えるかもしれません。

「環境という物差し」で見れば、未来は守れる
佐川)全社員が環境保護への理解を深め、SDGsの重要性を認識し、具体的な行動計画を作ることで企業の方向性が明確になりました。社員全員が同じ方向を向くことは簡単ではありませんが、環境に対する興味や関心を深めることで、会社として環境配慮の目的と価値を理解し、一丸となって取り組む姿勢が生まれました。具体的な事例を通じて社員のスキルアップと意識向上につながっています。
また、新たな価値提供として、環境保護印刷やデジタル印刷を推進することで、当社の製品が環境に配慮していると認知され、顧客からの評価も高まったのはうれしいことですね。
「環境という物差し」で突き詰めていくこと。この視点をもって企業活動に取り組んでいけば未来が見える。そう考えています。