「脱炭素は特殊なことではない」身近な脱炭素で固定概念を覆す
2025年03月14日

紙加工製品を手掛ける株式会社イトウは、2024年3月に家庭用紙製品分野で日本初の中小企業SBT※に認定され、四国中央市SDGs推進パートナーに参画するなど脱炭素経営にも精力的に取り組んでいます。代表取締役の三木慎也氏と社内でSDGsプロジェクトリーダーを務める田口健治氏にお話を伺いました。
※SBTとは…Science Baced Target パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標
株式会社イトウ
1971年創業。以来「紙のあらゆる可能性にチャレンジする」を合言葉に、紙加工製品を手掛ける製造販売メーカー。主な商品は、化学雑巾、汗取りシート、クッキングペーパー、国内初の掃除機紙パックなど。時代のニーズに合わせて、多様な商品開発を行っている。
【事業内容】紙加工(空気清浄機用脱臭フィルター・掃除機用紙パック等)
【代表取締役】三木 慎也 氏
【本社住所】〒799-0101 愛媛県四国中央市川之江町9-1
【電話番号】0896-58-1094
【FAX番号】0896-58-5771
【企業HP】 http://www.papetier.jp/

家庭用紙加工分野で日本初のSBT認証を取得
代表取締役 三木)私たちが脱炭素に向けた取組みを始めるきっかけとなったのは、弊社が大手グローバル企業と取引があることからでした。
大手企業では、中小企業と異なり、スコープ3(企業活動で発生する間接的排出量を算定する基準)まで算定・削減をする必要があります。委託先である弊社も、将来的に二酸化炭素排出削減を求められる可能性が高く、事業を長く継続していくためにも、先回りした対応が不可欠だと考え、SDGs活動の一環として脱炭素に取り組むことを決めました。
まず、世の中でどのような取組みがあるのかを調べ、SBT認証を知りました。この認証は、企業の温室効果ガスの削減目標が、科学的根拠に基づいて設定されていることを、国際的な認証機関「SBTイニシアティブ(SBTi)」が検証し、認定するものです。
しかし、具体的な内容や進め方の知識がなく、弊社だけでは認証取得が困難だったため、中小企業基盤整備機構の支援を受け、SBT認証のコンサルタントを紹介いただきました。
2023年11月から2024年3月の間に10回コンサルタントの派遣を受け、紙加工分野で初めて、中小企業SBTの認証を取得することが出来ました。2030年までに2022年比で42%のCO₂削減を目標に掲げています。

使用電力量を調査したことで見えた脱炭素の課題
三木)SBT 認証取得のために、まずは、自社の二酸化炭素排出量の調査を開始しました。専用の計測ソフトなどは導入せず、コンサルタントに相談し、独自に進めました。
弊社は加工業のため、工場の電力使用量が最も多いだろうと予測していましたが、実際に調査してみると、エアコンが全体の45%を占める予想外の結果となり、大変驚きました。
脱炭素と聞くと、大規模な設備投資をするなど特殊なことを考えてしまいがちでしたが、この調査から、実は生活の何気ない部分を意識するだけで二酸化炭素の排出量を抑えることができるのだと気がつきました。調査結果から、省エネエアコンへの切り替えや本社照明の100%LED化を実施し、3ヶ月で CO₂排出量約6.8%削減に成功しています。
これらの取組みは、中小機構や愛媛県、四国中央市の補助金を活用しました。補助金の活用は、資金面でのメリットだけでなく、取組みの情報発信といったメリットももたらすため、経営にとって有益だと捉えています。

取組みの共有が社員一人ひとりの意識改革に
社長のプレゼンからスタート
プロジェクトリーダー 田口)会社全体で協力して SDGs活動を進めるためには、上層部だけでなく、社員一人ひとりの意識が最も重要です。そこで弊社では、SDGsの取組み開始時に全社員を集め、社長自らがプレゼンを行いました。その後も毎日の朝礼で、取組みの概要や成果の共有を行っています。
また、各部署から代表者を選抜した11名で定期的に電気使用量などの報告会を実施しています。この場では、脱炭素に関することだけでなく、会社に対する社員の要望や意見交換も行っています。普段社長と接する機会の無い社員も意見を出しやすい空間にするため、食事をとりながら堅苦しくない雰囲気で行うといった工夫もしています。実際に行ったトイレの改修やウォーターサーバー設置は、この意見交換で出た社員からの要望を反映したものです。
環境商品の誕生
三木)環境に優しい紙の特性を活かし、環境にやさしい商品の開発にも取り組んでいます。現在弊社が取り組んでいるのは、介護用小型脱臭装置『BAMBOO AIR』です。電動ファン以外の全てが紙と竹活性炭でできている、リサイクルが可能な商品になっています。
この製品の開発は、介護の現場でおむつの便臭に悩んでいる方が多い、という声がきっかけになっています。今から7年ほど前に公益財団法人えひめ産業振興財団(愛媛県内産業の総合的な支援機関)から、「紙と活性炭のみで作られた弊社のフィルターを活用して、脱臭装置を開発できないか。」という相談があったことが開発の始まりでした。
2年ほどかけて試作しましたが、大きさや価格が課題となり開発は難航しました。しかしある時「外装も紙製にする」というアイデアが生まれ、小型化と価格抑制を実現。介護施設だけでなく、自宅介護でも気軽に使える製品が完成しました。
従来の介護現場では、脱臭装置ではなく空気清浄機が活用されていましたが、空気清浄機では脱臭機能が弱く、大人のおむつの便臭は取れません。
一方で、弊社の脱臭フィルターはペレット状の活性炭をそのまま使用するため活性炭の物量が多く、一般的な不織布コーティング型に比べ脱臭性能が非常に高いのが特徴です。強度や空気の流れの検証は、徳島文理大学にご協力いただきました。これからも時代やニーズに合わせた製品を生み出していきたいと思っています。


子ども・孫のために綺麗な環境を残したい
やるべきことに取り組む姿勢を
田口)脱炭素への取組みをしたことで良かったと感じたことは、電気代の削減ができたことはもちろんですが、私たちの子どもたちや孫たちの世代に向けて自分ができることを考えるきっかけになったことです。何より社員一人ひとりがそういった意識をもつきっかけになりました。
自分たちの世代が良ければそれでいい、ではなく、未来に綺麗な環境を残す取組みができていることが嬉しいと感じています。
また取引先に対して、弊社がやるべきことに取り組んでいる、という姿勢を示せるという点でも良かったと感じています。取引先から脱炭素に関しての調査などはまだ入っていませんが、常日頃から脱炭素に向けた体制が整っていることは今後の事業に活きてくると思います。

脱炭素事業で芽生えた意識
三木)個人的な取組みでは、自宅でもエアコンの掃除をこまめにするなどして使用電力を減らすようにしています。エアコンの電気使用量は、室外機やフィルターの掃除をするだけでも大きく変わるのです。エアコンの効きが悪くなったと感じたら買い替えを検討するのではなく、それ以外の選択肢を考えるようになりました。
田口)私も、小さなことですが不在時の消灯やエアコンの設定温度を1度下げるなど、会社での脱炭素の取組みを通じて意識的に行動するようになりました。
社内でも社外でも、「意識を持つ」ということが一番の脱炭素だと感じます。
再生可能エネルギー導入から見えてくる課題や成果の共有
脱炭素の具体的な実現のために
田口)弊社としては今後、再生可能エネルギーの導入が必要になってくるでしょう。
ただ、法規制や補助金、メンテナンスなどの情報が浸透していないため、何をするべきか判断するのが難しいと感じています。県や市から補助金情報の発信や、再生可能エネルギーを導入している企業が実際に導入してどうだったのか、各企業が課題や成果などを発信してくださるようになるといいですね。
脱炭素は決して特殊なことではない
三木)脱炭素は特殊なこと、難しいことだと思っている人が多いと感じます。
実際には、脱炭素は身近で普通のことだということを知っていただきたいです。お金をかけて設備を導入することだけが脱炭素ではありません。自分たちがどこに電力を使用しているのかを知り、使用電力が高くなっているところを節電する。そんな単純なことで良いのです。
自分たちには関係ない、最先端な会社がすることだという意識を捨てて、身近なことから始めてみることが重要だと思います。まずは小さなことでもやってみようと思う会社が増えることを期待しています。
