地域の未利用材を有効活用して行う、地域密着型バイオマス発電の取組み

内子龍王バイオマス発電所の外観写真

愛媛県喜多郡内子町の有限会社内藤鋼業は、町の77%を占める豊富な森林資源を活用したバイオマス発電所を運営しています。今回は、代表取締役の内藤昌典氏にお話を伺いました。

有限会社内藤鋼業

愛媛県内子町にて、帯鋸製作・目立から始まり木工・製材機械関係、作業工具等、環境配慮商品、バイオマスプラントなど時代とお客様のニーズの移り変わりに寄り添って事業を拡大。近年ではバイオマスに力を入れ、未利用木材を活用したペレット燃料の製造販売、バイオマス発電事業までを一貫して手掛けている。地域資源を無駄にしない効率的なエネルギー創出を実現させた取組みが評価され、これまで数々の賞を受賞している。

【事業内容】 木工・製材機械関係、木質ペレット製造、バイオマス発電事業
【代表取締役】 内藤 昌典 氏
【本社住所】〒795-0301 愛媛県喜多郡内子町五十崎甲2126番地1
【電話番号】0893-44-3063
【FAX番号】0893-44-3245
【企業HP】 http://naito-kogyo.co.jp/

内子バイオマス発電所の外観写真

はじまりは『内子町バイオマスタウン構想』

脱炭素事業のはじまりは、2010年(平成22年)に策定された『内子町バイオマスタウン構想』です。この構想は、森のプロジェクト・畑のプロジェクト・まちのプロジェクトの三本柱で成り立ち、地域のエネルギーを地域で作り出す、いわば「エネルギーの地産地消」を目指すものでした。

地域の資源を、環境に優しい燃料に

内子町バイオマスタウン構想「森のプロジェクト」に登場するのが、バイオマス燃料である『ペレット』です。ペレットは木材を破砕しておが粉にし、乾燥させたものを圧縮して作る木質燃料で、ヨーロッパや北米ではすでに一般的な燃料として利用されていました。
内子町では、このペレットを活用し、地域の脱炭素を目指す構想がまとめられていました。

積まれた丸太の写真
原料となる丸太
手のひらにペレットを載せた画像
ペレット

弊社でもペレットに着目した事業の展開を検討していました。

弊社はもともと機械を扱う会社ですので、当時はペレットボイラーやペレットストーブなどの機器の取り扱いを始めていました。そんな中、内子町役場へペレットストーブの営業に伺った際、内子町が学校や公共施設にペレットストーブを積極的に導入する予定であることを知ったのです。

これをきっかけに、弊社は内子町と協力しながら、町内各施設へのペレットボイラー、ペレットストーブの設置を進めていくことになりました。

内子町におけるペレット製造事業に名乗りを上げる

当初、ペレットは他の工場から購入していましたが、町内でペレットを使用する施設が順調に増えたことで、ペレット工場を建設する計画が持ち上がりましました。町や県の尽力により補助金の目処も立ちましたが、実際に製造事業を担う会社が決まりませんでした。
そこで弊社が手を挙げさせていただき、内子町でのペレット製造事業がスタートしました。

また、運搬効率を考え、ペレット工場は、原料となる木材が集まる「内子町森林組合 小田原木市場」に隣接させています。

内藤 昌典さんの写真
代表取締役 内藤 昌典 さん

オイル価格の変動でペレット販売が不安定に、発電事業へ

前述の通り、当初ペレットは燃料として販売していました。

しかし、外国産の安価なオイルの流入により価格が下落し、国内生産のペレットは価格競争で不利な状況に置かれます。一方で、オイル価格が再び上昇すると、ペレットが急に売れ始めるなど、売上げが安定しない状態が続き、燃料販売だけでは事業継続が困難になっていきました。
そこで検討されたのが、ペレットを利用した発電事業です。電気は照明や冷房などで一年を通して使用されるため、安定した需要が見込めます。
さらに、山に放置された未利用材をペレットに活用できれば、森林整備や雨天時の土砂災害防止にも繋がります。

こうして、弊社は発電事業への参入を決断し、2018年(平成30年)に『内子バイオマス発電所』の稼働を開始しました。

内子バイオマス発電所の外観
内子バイオマス発電所

町に必要な電気の3分の1が作られる『内子バイオマス発電所』

工場で製造されたペレットは、隣接する発電所に運ばれ、6台の『木質ペレットガス化熱電併給装置』に投入されます。ここでペレットを燃焼させて発生したガスでエンジンを回し、発電を行います。

また、ガス化の過程で発生する温水は、『バイナリー発電装置』にも利用されます。これにより、ペレットから生まれるエネルギーを無駄なく発電に活かす仕組みが実現しています。

こうした工程を経て、年間約811万kWhの電力が生み出されます。これは約2,500世帯分に相当し、約7,000世帯が暮らす内子町において、3分の1ほどの町民の暮らしを支えている計算になります。

※バイナリー発電装置…温泉熱や工場廃熱など、100℃~150℃程度の低温熱源で、水より沸点の低い媒体(アンモニア水やペンタン)を沸騰させ、その蒸気でタービンを回して発電する装置

木質ペレットガス化熱電併給装置の写真
木質ペレットガス化熱電併給装置

発電された電気は、100%再生可能エネルギーを扱う『みんな電力』へ

発電所で作られた電気は主に、100%再生可能エネルギーを扱う電力会社『みんな電力』へ売電しています。この電力は、一般家庭や企業など、『みんな電力』に登録している方々に利用されています。

また、『みんな電力』には「お気に入りの電力生産者を応援する」仕組みがあり、県内外の多くの方に、弊社の発電事業を支えていただいています。

山道の回復を助ける『バイオマスストーン』

木材を燃やした際に発生する灰とセメントなどを混ぜて乾燥させた『バイオマスストーン』というリサイクル材の製造にも取り組んでいます。これは、林道の轍(わだち)を直す整備補助材として活用されています。

また、セメントに含まれる六価クロムについては、薬剤を使用することで基準値以下まで低減させ、人や環境への影響に配慮しています。

積まれたバイオマスストーンの写真
バイオマスストーン

木材を最後まで無駄なく。炭の驚きの活用方法

ペレットでの発電過程では、大量の粒子状の炭が発生します。この炭を、製鉄所で使用される石炭と燃焼することで、CO2削減に役立っています。
また、炭を水と混ぜて土のような形にすることで、農業施設向けの土壌改良材として使用されます。

さらに、新たな取組みとして、リンの吸着材としての活用も検討されています。リンは現在、100%を外国からの輸入に頼っていますが、実は野菜などにも含まれる身近な成分です。
私たちが食事で摂取したリンは、体内を通って下水として浄化槽に集まります。そこに、リンの吸着率が高い炭を投入し、下水中のリンを炭に吸着させます。こうしてできた炭を活用し、ハイブリッド型の肥料を製造しようという試みです。

この取組みは、補助金の交付を受けながら、広島県福山市にて実際に稼働しています。
ペレット、ペレットを燃やすことで得られるエネルギー、そして炭、木材を、最後まで余すことなく活用しています。

瓶詰めされた素材を並べて比較する様子

未利用材持ち込みで発行される、内子町での地域通貨『ドン券』

月に2日ほど市場で開催される『木こり市場プロジェクト』では、山に残っている未利用材を一般の方から持ち込んでいただき、私たちが7,500円/t(ドン券3,500円と現金4,000円)で買い取っています。
『ドン券』とは、内子町内の50以上の店舗で利用できる独自の地域通貨です。一般の方でも意外と多くの木材を集められるので、家電や日用品の購入などにも十分活用できます。

このプロジェクトを通して、年間約500tほどの木材が市場に集まっています。発電所の稼働に役立つだけでなく、山の環境維持にも繋がっています。

券の見本画像
内子町の『ドン券』見本

2つめの発電所『内子龍王バイオマス発電所』が誕生

最初の発電所稼働から約3年後の2022年(令和4年)、2つ目の発電所となる『内子龍王バイオマス発電所』が誕生しました。
発電に必要な木材は、内子町森林組合から購入していましたが、稼働を続ける中で、想定以上に木材が集まるようになりました。そこで、内子バイオマス発電所で余った木材を活用するため、新たな発電所の建設を決めました。

内子バイオマス発電所との大きな違いは、「熱を熱として利用する」点です。内子インターチェンジ近くにあるホテルとフィットネスクラブに併設し、それらの温浴施設や温水プールで熱エネルギーを活用できる設備を整えました。

また、内子町の景観条例に配慮し、CLT工法を採用した「魅せる木造発電所」に。観光資源としての役割も担っています。
これらの取組みが評価され、『ウッドデザイン賞』『コージェネ大賞2024民生用部門特別賞』を受賞しました。

※CLT工法…ひき板を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。木の香りや温もりを感じる空間となるだけではなく、CO2排出量削減や森林保全の効果も期待される。

内子龍王バイオマス発電所の外観
内子龍王バイオマス発電所

工事火災で事業が2年間ストップしたことも

発電所が順調に稼動に乗ってきた矢先、2023年(令和5年)にペレット工場で火災が発生しました。
建物だけでなく機械も焼失し、発電所の業務は1年以上にわたって停止することとなります。
設備を整え直し、再スタートを切るまでには約2年を要しました。
その間、従業員や林業関係者への対応など、さまざまな課題に向き合う必要があり、大きな苦労を伴いました。

見学会で感じる取組みの価値を認めてもらえる喜び

現在、これらの発電所およびペレット工場では見学会を実施しており、お一人当たり5,500円から7,700円の参加費をいただいています。
参加される方の多くは、最初「少し高いのではないか」という反応をされるのですが、バイオマス発電についての説明や施設見学を終える頃には、「これだけ学べるのであれば、一万円の価値がある」と、一転してお褒めいただくことが多々ありました。
私たちがこれまで取り組んできたことを知っていただき、その価値を認めてもらえた瞬間は、本当に嬉しく感じます。

また、バイオマス発電事業の拡大により、地域の雇用数増加にも繋がっていると感じています。若い人たちが林業に興味を持ち、私たちの仲間として加わってくれた時には、大きなやりがいを感じました。

今後、脱炭素事業を考えている方へメッセージ

CO2は目に見えない存在です。そのため、増えているのか減っているのか実感しにくく、脱炭素に取り組まないという選択をする国があるのも事実です。

しかし、四国中央市出身の真鍋淑郎氏が、CO2が地球温暖化に与える影響を明らかにし、ノーベル物理学賞を受賞したように、世界のスタンダードな考え方は「地球のために脱炭素の取組みは必要だ」という方向に進んでいるのではないでしょうか。
温暖化が進んでも、地球そのものは痛くもかゆくもないかもしれません。けれど、そこに暮らす私たちはそうはいきません。次の世代のことを考えれば、脱炭素に取り組まないという選択肢はないと感じています。

人間は利口な生き物だからこそ、こうした課題の中にビジネスチャンスを見いだせるはずです。今が人類の最終形態だとは、私は思っていません。ここからさらに次の段階へ進むために、今自分たちにできることを始めていきましょう。

内藤 昌典さんの写真