工場の太陽光パネル導入で電気代約50%削減に成功! 100%再生可能エネルギーを目指す脱炭素事業
2024年10月22日
愛媛県新居浜市にある株式会社愛新鉄工所は、脱炭素事業に精力的に取組み、『新居浜市SDGs推進企業』に認定されています。新居浜市内の中小企業で太陽光発電設備をいち早く取り入れ、愛媛県主催の脱炭素セミナーで講師を務めるなど、新居浜市の先進事例として評価されています。
脱炭素事業の啓発活動に広く貢献している代表取締役の片座誠一郎氏にお話を伺いました。
株式会社愛新鉄工所
愛媛県新居浜市で、クレーン関連装置の製造や化学プラントのメンテナンスなどに携わる。「人と社会の未来を支える」を企業理念に掲げ、素材から完成品まで、社内一貫体制で製造できる技術と設備を確立している。
【事業内容】クレーン関連装置製造、プラント向けバルブメンテナンス、化学プラント向け機械装置の設計製造
【代表取締役】片座 誠一郎 氏
【本社住所】〒792-0861 愛媛県新居浜市清水町12-50
【電話番号】0897-33-7070
【FAX】0897-32-2320
【企業HP】https://aishin-web.jp/
コスト削減が脱炭素を意識するきっかけに
脱炭素事業を始めたきっかけは、会社として課題となっていたコスト削減です。
診断機関による省エネ診断を受け、補助金を利用しながらLED電気や省エネエアコンの導入、コンプレッサーの入れ替えなどからスタートしました。コスト意識を持って取り組んだことが結果的に脱炭素に繋がっていったことから、徐々に脱炭素事業に意識的に取り組むようになりました。
弊社は脱炭素に取り組むにあたり、県や市の省エネ診断を利用。電気使用量の調査やシミュレーション、補助金や導入設備の提案などをしていただけるので、大変助かっています。
電気事業法改正によって進んだ太陽光発電設備の導入
太陽光発電の始まり
東日本大震災の影響を受け電気の需要が高まったことから、2012年(平成24年)に太陽光発電設備への取組みを始めました。
その後、会社として一番インパクトが大きかった取組みが工場の太陽光パネルの導入です。
工場への太陽光パネルの導入は、以前から議題には上がっていましたが、当時は道路を跨いで線を引くことが法律で禁止されていたため実行していませんでした。
しかし、2021年(令和3年)に電気事業法が改正され、温室効果ガス等の排出抑制等のための設備設置については、道路を跨いだ複数の需要場所でも、保安上の問題が解決されていれば1つの引き込み線で可能となったことが大きなきっかけとなりました。
弊社には3つの工場があります。3つの工場で電気供給を繋ぐことができれば、電気容量が増え自家消費率が高くなることから、太陽光パネル導入に踏切りました。太陽光パネルの設備規模については、コンサルティング会社に弊社の電気使用状況を調査していただき、その値を分析して最適な設備規模を決定しました。
太陽光パネル導入後、弊社の電気使用料と太陽光パネルによる発電量を調べた結果、工場内の電気は約60%を太陽光パネルによる発電で賄えています。さらに、自家消費率が30%以上の場合に活用できる余剰売電の仕組みを取り入れて、休業日など設備が動いていない時の余剰分を売電しています。
製造設備の見直し
作業工程の中に、軸に穴を嵌め込む方法の一つである「焼き嵌め(やきばめ)」という工程があります。その際、軸を受ける側の車輪の加熱にプロパンガスを使用していましたが、電気で温める電気炉に転換することで、ガスを燃やすことで排出していたCO2の削減に成功しました。
新しい設備に投資したことで生産性が上がり、機械自体も省エネになったことでコスト削減ができました。
脱炭素事業が、業界のイメージアップに繋がる
脱炭素事業をして良かったことは、会社や業界のイメージアップに繋がったことです。
「鉄工所」と聞くと3Kのイメージなどあまり良くない印象を持たれることがあります。私自身それをなんとか打開したいと思っていました。実際に自分の手で作ったものが社会で動いている、私はそんな物作りの仕事を尊いものだと思っていますし、プライドもあります。脱炭素などの取組みを通じて業界に良いイメージを抱いていただける機会があり、そこが良かったなと感じています。
また、自転車で通勤する社員が増えるなど、脱炭素を企画した上層部以外の従業員の脱炭素への意識にも良い影響が出てきました。
電気料金の大幅カットに成功
脱炭素事業を開始してからの具体的な成果で1番大きいのは、電気代の削減です。
2022年(令和4年)7月から2024年(令和6年)7月の電気料金単価は1.5倍になっているのに対して、弊社の電気料金は従来の電気料金より約50%削減に成功しました。短期的な節約というだけでなく、近年の電気代高騰などの影響を受けづらい会社づくりができてきていると思います。
早くから脱炭素事業を取り入れていたことで、原料や燃料、電気代などの価格高騰にも対応でき、取組みのタイミングも良かったと思います。
自然を楽しむことで脱炭素も叶える
個人として取り組んでいることは、こまめに電気を消す、エアコンや床暖房をつけないなど自宅での省エネや、12年ほど前から自転車で通勤するなど長くコツコツと続けていることが多いです。
キャンプが趣味なので、休日は家でエアコンをつけてくつろぐ…というよりも、暑くても外で自然を楽しんでいます。
学生時代にヨット部に所属していたのですが、ヨットはエンジンを使わず帆に受けた風の力だけで進む、自然の力を利用した排気の出ないスポーツです。当時は脱炭素を意識していたわけではないですが、今思えばその頃から、脱炭素と潜在的に繋がっていたのかもしれません。
防災拠地拠点となり地域貢献を目指す
今後取組みたいことは蓄電器です。現在売電している発電の余剰分を貯められる仕組みが整えば、弊社を防災拠点として機能させることができます。
新居浜市の弊社がある土地周辺は、海が近く堤防1つで仕切られており、比較的低い土地が多い場所です。そのため、大雨や災害の影響を受け浸水する可能性も考えられます。その際に充電設備などが整った一時的に避難できる場所になれればと考えています。
また、環境問題に取り組んでいることを示す目標設定のひとつである「SBT認証」を獲得し、最終的には100%再生可能エネルギーで調達する「RE100」を目指しています。
そのために、これまで精力的に取り組んできた電気の省エネ以外の部分にも取り組んでいきたいと思っています。
今後脱炭素事業を考えている方へメッセージ
未来の社会はみんなで作り、進めていく社会だと思っています。業界や競合など関係なく情報を共有し、協力し合って脱炭素社会を進めていきたいです。
脱炭素は、弊社で取り組んだことと全く同じことを他社で実践したからといって、必ずしも成功するものではないと思っています。
弊社の例も含め、今は色々な事例があると思いますので、まずは脱炭素について考え、自社に合った取組みについて検討するきっかけになるといいと思います。
しかし、脱炭素の取組みは自社だけで対応することが難しいので、制度や費用面でも受け皿となる仕組みを、自治体や政府には作っていただきたいです。
コンサルティング会社や補助金をうまく利用して、環境にも企業にもメリットがある方法を模索していきましょう。