『ゴミを資源に繋がる宝に』脱炭素でスマートアイランドを目指す
2025年03月25日

愛媛県松山市の離島にあり、島内唯一の施設、特別養護老人ホーム「姫ヶ浜荘」を運営する社会法人島寿会は、利用者の送迎などに電気自動車を利用するなど、松山市の環境モデル都市推進課と協力しながら『スマートアイランド構想』による取組みを実施しています。施設利用者のことを第一に考え脱炭素事業を行う事務局の須賀昇氏にお話を伺いました。
社会福祉法人 島寿会
1992年に設立後、愛媛県松山市中島島内で唯一の特別養護老人ホームとして、増改築を行いながら島内外から多くの入居者を受け入れて、施設利用相談だけでなく在宅ケアにも必要に応じ対処。松山市の環境モデル都市推進課と協力しながら、スマートアイランド構想による取組みも行っている。
【事業内容】特別養護老人ホーム「姫ヶ浜荘」運営。ショートステイ、デイサービス、居宅介護支援
【理事長】松本 格 氏
【本社住所】〒791-4503 愛媛県松山市長師156-1
【電話番号】089-997-0777
【FAX番号】089-997-0899
【企業HP】 https://www.himegahama.jp/

中島島内で唯一の特別養護老人ホーム
当法人は、特別養護老人ホームの他に、ショートステイやデイサービス、居宅介護支援事業所を運営しています。
現在、中島で特別養護老人ホームとして運営しているのは「姫ヶ浜荘」のみということもあり、利用状況は満床状態で入居相談が多く寄せられています。そのため介護相談や施設利用相談に加え、必要に応じて在宅ケアにも対応しています。

島の中という立地を生かしつつ、課題に向き合う
『スマートアイランド構想』を目指し電気自動車の利用を開始
松山市の環境モデル都市推進課から、SDGs推進と中島全体の『スマートアイランド構想』への協力依頼を受けたことが取組みの始まりでした。この構想は、ICTなどの新しい技術を活用し、離島特有の課題を解決して産業活性化を目指すものです。その取組みとして、まず初めに電気自動車の利用を開始しました。時速20km未満で公道を走ることができる電動車『グリーンスローモビリティ』は、入居者のレクリエーションの一環として島内の散歩などに活用しています。

中島内では、当法人での利用以外にも、環境モデル都市推進課からの依頼の際など、宿泊施設や観光客向けにEV車の貸し出しを行なっています。その後、松山市経営戦略課からも小型EV車『C+pod』の利用依頼があり、現在もデイサービス利用者の送迎などに利用しています。
こういった経緯から、2022年7月にSDGs推進協会に加入。これを契機に、法人全体でも環境活動への意識が高まりました。

利用者ファーストで進める脱炭素化
高齢者施設では、利用者の安全と快適さを最優先に考える必要があります。そのため、単純に電力使用を抑えることが難しいのが現状です。そこで、施設の老朽化に伴う問題など、利用者ファーストでできることを考え、取り組んできました。
設立当初から使用していた水銀灯は照度が低く、高齢者がつまずくリスクがありました。そこで、水銀灯よりも明るく、エネルギー消費を抑えられるLED照明を導入することにしました。
同時に、老朽化によりエアコンの効きが悪いという問題が挙がり調べたところ、使用していた古い大型エアコンは電気使用量が大きいということが分かり、個室に家庭用の省エネエアコンを導入することに。
ただし、これらの改修には高額な費用がかかるため、工事業者から提案を受け「令和5年度愛媛県脱炭素型ビジネススタイル転換促進事業補助金」を活用して実施しました。取組みから1年を経過していないので年間の計測実績はありませんが、機材の予測データから、年間の二酸化炭素排出量が、省エネエアコンは35.9%削減、LED照明では81.9%削減できる見込みです。


単なるゴミが資源に繋がる宝に
法人として直接的な脱炭素活動には限界がある中で、他に何かできることがないかと模索しました。
そこで注目したのが、介護保険事業所で日々必ず出る紙おむつの廃棄問題です。当法人では年間35トンもの紙おむつゴミを排出しています。
利用者の快適な生活を最優先に考えているため、紙おむつ自体の使用量を減らすことは難しい状況です。そこで、「このゴミを資源化できないか」とゴミ回収業者を探すことに。
調査を進める中で、紙おむつを固形燃料化し資源として活用できることを知りました。二酸化炭素削減には直接繋がらないかもしれませんが、当法人としても資源循環に貢献できる可能性を感じ、紙おむつを固形燃料化しているゴミ回収業社に変更することに決めました。
今後も事業の中で取り組める活動があれば、積極的に新たな挑戦を模索していきたいと思います。
課題解決に向き合い、新しい発見とともに未来へ
ICT化と脱炭素は同時進行で進めていくべき
ゴミ回収業者を変えたことで、捨てることが当たり前になっていたゴミも取組み方次第で資源になるのだという意識改革になりました。
そこで、職員一人一人にもゴミの量を意識してもらいたいという想いから、職員に昼食や夜勤食で出たゴミを持ち帰ってもらうという施策を実施しました。正直、職員には不評でしたが、実際に自分が持ち帰らなければいけないとなると、ゴミを減らす工夫をする職員が増えてきました。事業所としてはゴミの削減にもなりますし、職員の小さな意識改革も脱炭素に繋がると思っています。
また、補助金を利用してICTの導入も進めました。職員の記録は基本紙媒体を使用していましたが、電子データ上で管理する方法に変更しました。
紙やゴミの削減にもなり、システム的にも運用が楽になるかと思いましたが、働き手の高齢化が進んでいる介護職では、ソフトを使用したデータ管理を進めていくことは失敗の連続でした。今後も引き続きICT機器の利用に理解を得るには、長い時間をかけて人材を育成していく必要があると思っています。
これから人口減少に伴い、介護の担い手も減少していくでしょう。ICT化は資源のためだけでなく、人々の未来のために必要な取組みです。だからこそ、職員に無理をさせて、急いで進めるのではなく、一人ひとりに納得してもらえるまで時間をかけて進めていくことを大切にしています。
ICT化と脱炭素を同時に進めていくことが、職員の負担を減らし、一緒に資源について考えていけることに繋がっていくと考えています。まだ道半ばですが、職員から「楽になった」と言ってもらえる日が来るまでチャレンジしていきたいと思います。
学生に新しい価値観を伝えられる喜び
愛媛大学の学生が『スマートアイランド構想』について学ぶため、年に1回ゼミ研修の一環として中島でフィールドワークを行っており、その際に、当法人も訪問を受け入れています。
私たちの取組みを知っていただくと、多くの学生に「ゴミは資源に繋がる宝」であるという考えに興味を持っていただきます。これまでは「ゴミ」と「資源」は別物と捉えられがちでしたが、事業者の取組みを知ることで、それらが繋がる仕組みへの理解が深まるようです。学生の皆さんには環境問題だけでなく、LGBTQや外国人技能実習生についてなど、私たちが取り組んでいることを色々とお話しています。
当法人の発信を通じて、学生が新しい視点を持ち、中島や社会の多様性について理解を深めてくれることは大きな喜びです。未来を担う学生こそ、まさに「宝物」だと感じます。
今後脱炭素事業を考えている方へメッセージ
会社でできる範囲のことから、まず始めることが大切だと感じています。上層部だけでなく、従業員一人ひとりが小さな行動から意識を持つことが重要です。その小さな積み重ねがやがて大きな成果に繋がります。難しく考えすぎず、少しでも脱炭素やSDGsに興味を持ってくれる企業が増えることを期待しています。
